洞窟の小人

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 リードが重厚なノッカーを引くと、中から唸るような重々しい声が聞こえた。 「長老! ハイシロ様がいらっしゃいました!」  扉を開くと、ひときわ天井の高い広い部屋に入った。  温かく乾いた室内には枯草の香ばしい香が満ち、奥まったところにあるヒツジの毛皮に覆われた椅子に、真っ白な毛玉のような長老が腰かけていた。  ハイシロは、長老の前に進み出て、丁寧に頭を下げる。 「よう……いらっしゃった」 「思いの外早い内に再訪いたすことになりました」 「うむ。これも導きによるものじゃ。『白き者』らも楽しみにしておるじゃろうて」  訳知り顔の長老に、ハイシロは怪訝そうな顔をした。 「私だけで良かったんでしょうか……」 「うん? のことを言うておるのか」 「……はい」  ハイシロの答えに長老は柔和な相好を作って頷いた。 「案ずるな。其方らは対の者。ハイシロ殿が辿り着いた答えには別のルートで必ず辿り着くようになっておる。逆もまた然りじゃ」  ハイシロは未だ釈然としない顔で長老を見つめている。 「私は……ただ、自分のルーツであるらしい北の精霊領域とそこに住まう人々の存在を確認しに来た、程度の気持ちで参ったのですが?」 「存じておるぞ。それは、そちらに目を向ける時期に来たということじゃ。明日から祭りの準備に入る。一週間後には『白き者』らが訪れよう。さすれば、祭が始まる。どうぞゆるりと過ごされよ」 「ハイシロ様も準備から参加されますか?」  控えていたリードがニコニコと笑ってハイシロを見上げた。準備、と言っても、何をするのだろう。ハイシロは首をかしげた。ツキシロ程運動神経がいいわけでも力仕事が得意なわけでもない。 「私でお役に立てますか?」 「飾りつけのセンスのある御方なら大丈夫ですよ。ハイシロ様は、ツキシロ様の婚礼の総プロデュースをなさったと聞いております。それはそれは素晴らしい宴だったとギンネズ様からお聞きしました」  ハイシロは面食らった。どこからどう話が伝わるものか予想がつかない。そもそもの流儀のわからぬ祭とやらに飛び込み、期待通りの働きが出来るかどうか些か不安だが。 「勘所を教えていただければ、及ばずながらお手伝いをさせてください」  えい、ままよ、とハイシロは承諾した。
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