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 斜面をその儘直進して登って行けなくは無さそうだがテントも含めて荷物は重く、体力を消耗すれば滑落の危険もある。  下調べも不十分な為、人が踏みしめた跡をのんびり辿る事にした。  再びなだらかな斜面を登って行く。  樹木の間は固い根が血管のように土の上を這い、転ばないよう慎重に足を運ぶ。  段々と山に身体が馴染んできた。  以前に登った奥穂高岳登頂までの難所に比べれば単調で楽な道のりだ。  水の匂いと音が近くに聞こえてきた。  尾根の間に流れる沢があるらしい。    歩を進めるごとに何かが活力を奪う。  視界全体を覆う薄い霧のせいか、数時間前に越えた都会の風景が彼方に霞んでいく。  ある種の浄化、俗世の澱が抜けていく感覚。  それにより如何に日頃虚勢を張って暮らしていたかを認識させられる。  何もかもがどうでも良いような、思考が鈍化してフワフワとし掛け、ザバスゼリーを啜って心身をシャキッとさせた。  心霊スポットという先入観がこの山に特別な覆いを掛けているだけなのかもしれない。  
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