3/19

59人が本棚に入れています
本棚に追加
/73ページ
 登山地図の等高線を見る限り、標高は凡そ500メートル、傾斜はキツくない。  山への入り口は確かにあったが道というには心細い筋ではあった。   多くの魅力的な山を有する長野で、辺鄙な地にある人知れぬ山は頑なに新参者を拒んでいるようだ。  だが登山道が無くとも山菜取りで村民達が活用するルートはある筈だ。    いや、山菜や茸を採る為だけでは無かったか。  荒祭は薄く笑った。  装備は何時も通り。  道には残痕があった。  先には杉の真っ直ぐな幹が針のように地面を突き破り、伸びた枝葉が陽光を遮っている。  枯れ葉が敷かれた土は適度な反発があって歩き易い。  登山靴で踏み締め、後に続くであろう者の新たな道標とする。  途中、額から上半分頭の欠けた小さな石仏がブナの木に凭れ掛かっていた。  雨に打たれて黒ずみ、長い年月で彫りがボヤけてしまっているが笑っているように見える。  近付くと、頭半分無いのは作成当初からと見え、ぞっと肌が粟立つ。    
/73ページ

最初のコメントを投稿しよう!

59人が本棚に入れています
本棚に追加