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カラスが霧のカーテンを裂くように突如高く鳴いた。
激しい羽音の後、キーンと耳奥に残る静寂が暫く続く。
静寂が真か、或いは幻聴なのか。
霧が戻る。
再び目を遣ると石仏が消えていた。
辺りの様子に微かな変化を覚えたが足を進めた記憶が無い。
左前にあった木の幹はもう少し太かった気がする。
レインウェアの下にはフリースも着込んでいるが鳥肌が収まらない。
緩やかで単調な道が暫くして藪に遮られ、斜面を漕いで進んだ。
手の甲に傷を負い血が滲む。
登っている最中、藪が刈り取られている箇所を見付けた。
村民の手に依るものだろう。
其方に泳ぎ、スムーズに藪を抜けられた。
その後少々傾斜がキツくなり、ゴツゴツした岩場を左に巻くと安定感のある場所に到達した。
ザックのサイドポケットからスポーツドリンクを抜き、喉を鳴らして飲む。
立った儘、氷砂糖を口に放り込んだ。
いつの間にか全身に汗粒が沸いていた。
アウター二枚を脱ぎ、籠った熱気を解放する。
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