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忌
平日の早朝という事もあって中央道は空いていた。
諏訪湖を右手に眺め松川インターチェンジを降り大鹿方面に向かう。
長野県には山が多い。
山梨県からずっと山ばかりだ。
国道153号を北へ進みながら、一列に肩を並べた中央アルプス連峰、左には南アルプスの白い稜線が繋ぐ山々の青さに気分が高揚してくる。
山のピークは空に溶け込み車内を通る風の冷たさが心地好い。
雄大な景色からハンドルを握る手に視線を戻した途端、澄んだ空気で開かれた胸が閉じてしまった。
深く切られた爪も手の甲にも、くすんだ生活の色が重ねられている。
小渋湖畔を過ぎると朽ち掛けて蔦の這うトンネルが暗い口を開けていた。
目指すは開放的な山々ではなくトンネルの先にあった。
正面に聳える低山は奥へ奥へと屏風のように折れ重なり、黒い木々と薄い霧のせいか隔絶して重く暗い。
光に背を向けアクセルを踏む。
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