冷たい彼と私

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私が白い息を吐きながら彼の後に続くと、車道を目当てのバスが速度を緩めながら通り過ぎた。 彼は乗り遅れまいと駆け足となり、停車とともに開いた昇降口へと列を成す末端へと辿り着いた。 置いて行かれないように私は走り、何とか彼の隣へ息を切らして席に着く。 「あの、あの、まだ、話が……」 絶え絶えになってまで喋ろうとする私の耳に呆れと取れる溜め息が届く。 「目的地まで15分ある。そんなにしてまで僕に話したい事とは何だ?」 (さげす)むような黒縁メガネの奥から注ぐ上から目線。 並んで座る体から発せられる威圧。 途端に心臓は早鐘を打ち、身体は強張る。 細められてはいるけれど均整のとれた二重の目にすっと流れる鼻筋、キュッと結ばれる乾燥知らずの艶やかな唇、シャープな顎。 彼が私を見ている。 (カッコイイ……) 思わず見惚れてしまってから眉間に寄せられるシワに気付いて緩んだ口元を引き締めた。
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