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「あ、あの、あのね」
ギュッ!と膝の上の両手を握り、彼から視線を外し改めて呼吸を整えて声を振り絞る。
が、「後12分だ」との声に再び首は90度動いた。
「え?」
「後11分。僕が君に掛けられる時間だ」
「は?いや、ちょっ、あのね、」
「何だ?」
「あ、うん、あのね、私、今日とっても頑張って勇気振り絞って山内くんに声かけたんだけど」
「そうか。その勇気は僕の時間を奪うほど重要な案件に繋がるのか。だったらサッサと話せ」
「あ、いや、その、私にとってはスゴく大事なんだけど、そう、重要かどうかは……」
「後9分」
「いや、だからね、何なのそのカウント?」
「さっき言ったはずだが?」
「ああ、私に掛けてくれる時間?てか、何それ、失礼じゃない?」
「僕の予定に割り込んできて要件を告げない君はどうなんだ?」
「いや、だって、仕方ないじゃない。いざ目の前にしたら緊張しちゃって……ちゃんと話せないんだもん」
「話せているじゃないか」
「は?いやいや、だってこれは山内くんがよく分からない事言うから」
「言い淀んではっきりしない君の態度のせいだろう。時間は待ってはくれないんだ。言いたい事があるなら素早く簡潔に言え」
二人の声は他の乗客にも聞こえているはず。
ほんの少し呼び止めて思い切って言葉にしようとした行為がこんな羞恥を味わうなんて……最悪だ。
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