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「麻衣子、足の調子はどうだ?」
次の日、練習が始まるとすぐに麻衣子に声をかけて、歩み寄る。
「大丈夫です。」
麻衣子の足を見るとテーピングで固定されている。けど、なんか固定の仕方へんだな。急いでつけたみたいな。
まぁでもちゃんとテーピングでケアしてきたのはえらいな。
「すぐに気づいてやれなくて悪かったな」
「いえ・・」
いつもより麻衣子の元気がない。やっぱり昨日の聞き方がまずかったのかな。
けどこっちもつられて元気を無くすわけにはいかない。ここは敢えて元気に行ってはげましてやるか。
「これ、練習メニューだ。バッチリきつめに作っといたから、気合い入れてやれよ。」
「はい。」
練習メニューを受け取った麻衣子はすぐにくるっと回って俺に背中を向ける。
「麻衣子、ちゃんと見てるからな。だから、お前の頑張って走ってる姿だけじゃなくて、ケガしても腐らず頑張ってる姿見してくれよ。」
麻衣子の足が止まる。肩が震えている。
なんだ?ぶちギレさせてしまったか?
美沙紀さんの野郎、地雷踏ませたのか。
「うわーーん」
嘘だろ。とんでもない地雷踏ませたな美沙紀さん。
麻衣子は突然大きな声で泣き出してしまった。
驚いた俺はどうしていいか分からず、あたふたしていると、その声に他の部員たち集まってくる。
「おい、優作お前なに泣かせてんだよ。」
「待て、これには事情があってだな。ってか俺もよく分かってなくて」
いきなり胸ぐらを男子部員に捕まれて焦るも、両手を上げて話し合おうと伝える。
しかし、女子部員たちからは既に白い目でみられる。
「日下最低じゃん」
「キャプテンだからなにやってもいいと思ってるんだよ。」
「調子のってんじゃん」
「後輩とコミュニケーションって言って本当は何が目的だったのだか。」
弁解の余地もなく、ひどい言われようだ。
まさかこれがみんなの本心なのか。
長距離のやつらもいるけど、黙ってる。あいつらもそう思ってたのか。
「やめろ、お前ら。なんか事情があるんだろ、優作。」
海人が俺と男子部員との間に割って入り、熱くなってる男子部員を静止させる。
事情って言ってもよくわかんねぇんだよな。
「コイツが麻衣子を泣かせたのは事実だろ。麻衣子に詫びろよ」
まあそれは事実だな。実際泣いてるわけだし。
ってかあれか、コイツ確か麻衣子の事が好きだって言ってたな。だからこんなに熱くなってんだな。惚れた女の為に熱くなれる、いい男だね。周りが見えなくなるのは勘弁だけど。
チラッと麻衣子の方を見ると女子部員に背中を擦られ、励まされる中一瞬横顔笑っているのが見えた。
あ~なるほど。これははめられましたな。
この状況はアイツの狙い通りってわけね。
なんとなくではあるがこの状況に違和感を感じていた。だからこそこんなに責められているのに頭はパニックになることなく、むしろだんだんと冷めていくのがわかる。
そして、今まで陸上部の為に頑張ってきた自分が急にバカらしくなる。俺はあんなに頑張ってきたのにこんなに言われるのか。こんな奴らの為に俺は頑張ってたのか。
「悪い海人。話すことはねぇよ。」
「おい優作、投げやりになるなよ。なにもないわけねぇだろ。」
何かあるんだろ、何か話せと海人の思いは伝わってくるも、悪いけどもうこんな部のことなんかどうでもいいよ。
「麻衣子、ごめんな。」
麻衣子に歩み寄り、頭を下げて渡した練習メニューを奪い取る。そしてそれをぐしゃぐしゃにして丸める。
「長距離メンバー、あとは先生に俺の方から話しとくから、これからは先生の指示で練習メニューを決めてくれ。細川キャプテン、あとみんなも今までありがとう。やっぱり後輩泣かせたらダメだよな、だから俺辞めるわ」
そう言うと俺は一礼して、ロッカーの方へと向かって歩く。
後ろでざわざわと話しているのが、聞こえるがもう俺には関係ないことだ。しかし自然と足取りは早くなる。
「おい優作、待てよ。落ち着けって。なにも辞めることないって。」
「悪いな海人、もう無理だ。もうやってけねぇよ。」
「んなことねぇよ。」
「悪いな。」
俺を必死に止めようとしてくれる海人の思いは正直嬉しかった。けど、もう俺の中ではもう一度やるって気持ちになれないぐらい、他の部員たちに裏切られたショックが残っていた。
ロッカーから着替えて外に出ると、待っていたのは海人ではなかった。
「先輩、本当にやめちゃうんですか?」
「ああ、伊瀬もこれからは先生の指示の元で頑張れよ。」
俺の意思の再確認なのか、俺が残る気がないのを悟ったのか伊瀬はうつむき黙っている。
伊瀬はなにか知っているかも知れない。
昨日も一緒に帰っていたし、なら言伝てでも頼むか。
「伊瀬、あとで麻衣子に伝えといてくれ。テーピングは部活ギリギリじゃなくて、時間かかってもいいからちゃんと巻けよって。」
「先輩、実は麻衣子・・」
「伊瀬、これで良かったんだよ。俺にとっても、アイツにとっても。お前も県大会向けて頑張れよ。」
やはり伊瀬は何かを知っていて、俺に伝えに来たようだったが、それはもう知る必要はない。
もう俺は陸上部に戻る気はないのだから、あとは残った奴らで勝手にやるだろう。
さて、職員室行くか。先生いるかな。
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