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新たな一歩
先生に出来事を軽く話して退部した。
もっと事情を聞かれたりするのかと思ったのだが、特になにもなくすんなりと辞める事が出来た。
昼休み
クラスの友達数人に部活辞めたのか、と聞かれたので辞めたと答えた。自分のことなので、けっこう退部って大ニュースな気がするが実際に他の人からすればどうでもいいことだから対して話題にはならない。
クラスに居るのもなんか落ち着かない。こんな時に行く場所は一つ。
「美沙紀さんいた。」
天文部の部室を開けると、美沙紀さんが食後の紅茶を飲みながら本を読んでいる。やっぱりコーヒーは無理してたんだな。
それにしても本当にいっつもここにいるな、この人は。
「後輩の女の子を泣かせて退部し太郎くんじゃないか。」
「事象としてはあってますけど、名前は全然あってないですよ。」
「アタシも泣かせに来たのか?」
いつものようなやり取りではあるが、今日はそれに乗り切れる気持ちにはなれなかった。少なくとも泣きたいのはこっちなのだ。
なんで察してくれないのだ、と美沙紀さんに怒っても仕方ない。けどイライラとしてしまう。ここで余計な八つ当たりなんかしたらここに来づらくなるのも理解している。陸上部と違ってここにこれなくなるのは困る。
なので、俺は理性が保てる今のうちにやっぱり戻ると美沙紀さんに伝えると天文部の部室を出た。
「日下くん、好きなお菓子思いついた?全然連絡くれないから聞きに来ちゃったよ。」
席に戻るなり、福本さんが話かけてくれた。
俺の事情なんて全く知らないのだろう。いつものように明るい声で話しかけてくれた。それがなんだかとても嬉しい。
俺の傷口を癒すかのようにスーッと気持ちが落ち着いていくのがわかる。あ~救われてる気がするな。もっと声を聞かせて欲しいな。
「福本さん、今日の放課後どこか行かない?」
思わず誘ってしまった。
福本さんは海人の事が好きなのだ。それは理解している。けど思わず誘ってしまった。
「いいよ。」
「えっ、いいの?」
正直驚いた。俺からの誘いに福本さんは全く動じることなく、今までに見たことのなかった優しい顔で笑ってくれたことに。思わず聞き返してしまった。
「うん、いいよ。あっ、そろそろチャイム鳴りそう。じゃあ放課後どこ行くか考えとくね。」
いいんだ。あっさり了解してくれた福本さんの背中を目で追ってしまう。
正直すげぇ嬉しい。けどそれと同時に福本さんは海人が好きなのだということに少し心を痛めてしまう。
福本さんはクラスメートからの誘い、もしくは海人の友達からの誘いだからOKしてくれたのだろう。
ホームルームも終わり下校のチャイムが鳴るとすぐに福本さんは俺の前にいつもと変わらぬ笑顔で現れる。
「日下くんはどこか行きたいところある?」
やばい、正直昼休み以降はほとんどボーッとしててなんも考えてなかった。
「誘っておいてなんだけど、まだ考えてない。」
「ええ~、ノープラン。それじゃカッコいいジェントルマンになれないよ。バッチリ女性をエスコートしなきゃ。」
「どうせカッコいいジェントルマンじゃありませんよ。ごめん、じゃあやっぱり今日はいいや。」
なんか申し訳なくなったのと、やっぱりまだ今朝の退部の気持ちが落ち着かない。さっさと家帰ろう。
そう思い、福本さんに謝って立ち去ろうとすると急に手を握られる。
「行く場所ないんでしょ?だったらアタシの買い物に付き合いなさい。ほら、行くよ!」
強引に握られた手に引っ張られ俺は福本さんの後をついて歩く。
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