スタートライン

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三日後 部活後海人と帰っていると、正門付近で声をかけられ、また福本さんはお菓子を持ってきてくれた。 「今日はマドレーヌを焼いたの。」 「この間のクッキー美味しかったよ。いつもありがとね。」 「ホントに?細川くんが喜んでくれて良かった。」 海人は笑顔でお礼をいうと福本さんは嬉しそうに笑う。確かにお菓子はマジで旨かったことには同意するね。 その二人の雰囲気を壊さないように俺の分のマドレーヌをソッと取ろうと手を伸ばす。 しかし、掴む寸前で福本さんに避けられる。 ??たまたまか? 再び試みるもかわされる。 マドレーヌばかり見ていた俺が顔をあげて福本さんの顔を見ると少し意地悪そうな顔でニヤリとしている。 「日下くん、何か言うことがあるんじゃないの?」 「そうだぞ、優作。彼女に言うことがあるだろう」 まさかの海人まで参戦して言ってくるとは。コイツら実は似た者同士なのか。 二人の雰囲気を壊さないようにと思ったのに、かえって違う流れを作ってしまった。 まあこの流れでやるべきことは一つ。感謝と恩返しだ。 「いつもありがとうございます。」 「よろしい。」 頭を下げてお礼をいった俺に満足げに福本さんは俺にマドレーヌを渡す。 これで感謝は出来たな。次は恩返しだ。 「そう言えば、福本さんって名前海里だったよね?」 「よく覚えてるね。そうよ。」 「海人も福本さんもお互い名前に海が入ってるなぁと思って。」 「入ってるな。それがどうした?」 「これは何かの縁だ。連絡先交換したら。」 我ながら下手な言い回しな気がする。これだったら普通に連絡先交換したらって言えば良かったかな。 「急にどうした?」 やはりそう言うと思いましたよ。想定内です。 もう次の言葉は決めてあります。 「例えば、俺が倒れる瞬間に福本さんを呼んでくれって言った時、連絡先交換してないと困るだろ。」 「いや他の誰かに聞くし、ってかそんなことあり得ないでしょ。」 確かにこれは苦しい言い回しだったか。 次はどうだ。 「俺が教科書忘れたから、福本さんに借りてきてくれって言ったら、連絡先交換してないと困るだろ。」 「お前ら同じクラスだから時間割一緒だろ」 確かに!図星を突かれて少しあたふたしたが、結果的にそれが俺を冷静にさせた。 そして、あることを、思い付いた。 「ってかあれだね、お菓子もらうときに連絡出来た方が便利じゃん」 「あーそれは確かにそうだな。ってなんかそれだとこれからもちょーだいって言ってるみたいで、福本さんに申し訳なくて逆に交換しにくいわ」 「ア、アタシなら全然大丈夫です。これからも日下くんたちにお菓子食べてもらいたい。」 「ハイ、決定。海人も福本さんもスマホ出して出して。」 「お前も出すんだよ。」 「俺も?まあいいか。」 俺は福本さんと連絡先を交換するつもりはなかったのだが、海人に言われて特に断る理由はなかったので、3人で交換した。 福本さんを見ると嬉しそうに笑っている。 よし、これで恩返し完了だ。
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