スタートライン

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被服室には既に全員揃っていて、俺が最後のようだった。 「お待たせ、みんな早いな。」 俺は黒板の前にたった。最初のころは、先生みたいで慣れなくてえらく緊張したのだが、最近ようやく慣れてきたところだ。 「じゃあ、始めるか。」 長距離部員は男子3人、女子5人の合計8人いる。 みんながみんな速いわけではないが、楽しくやれていると思う。みんなで和気藹々とした空気があるチームにしていきたいとキャプテンになった日から密かに俺の目標にしている。 「よし、なら男子から行くか。上野から目標タイムと最近の練習について話してみろ。」 「いきなり俺ですか?まあいいですけど。目標タイムは1500mで5分30秒です。」 上野のやつ大分目標タイムを低く設定してやがるな。こいつの実力なら5分切りだろう。 とか思ってしまうのだが、ここで敢えて俺は指摘しない。ここでの目標タイムはあくまで自分で考えて、自分を理解した上で自分で目標を設定し、宣言させる。あくまでこのプロセスが大事だと思っているからだ。 かといって何も言わないわけではない。 「目標はあくまで自分の実力を理解した上で、少し上の所に設定しろよ。そうすれば、少しずつでも自分の成長を実感出来て、走るモチベーションに繋がるからな。」 全員が順番に言っていき、俺はみんなで共有することを黒板に、個人的に気になった事をノートに記載していく。 「よし、じゃあこんなもんで今日は終わりにするか。あとは各自練習するやつは軽めにしとくこと。以上解散。」 小一時間行った集会も無事に終わった。今日も自分では気づかなかったことや、それぞれの思いを聞けて有意義だったな。ちょっと自己満足。 この話し合いを元に今後の全体と個人の練習メニューを考えていく。出来る限り目標達成が出来るように鍛えてやらなきゃ。けどケガされても困るからその辺の加減が難しい。 本当に世の強豪校の先生はよく考えてるよ。尊敬します。 さていつもはこれで終わりだが、今日はまだ やることがあるんだよな。 「伊瀬、麻衣子ちょっとこっちきて。」 練習に行こうとカバンを持っていた二人を呼び止める。 「どうしたんですか?」 「麻衣子、なんか俺に言うことはないか?」 「目標タイムが甘かったですか?」 「いや、お前はいい目標立ててたよ。甘いのは上野だな。」 「なら特にはないですけど。」 麻衣子は特に何もないかのような表情で俺を見る。 あくまで俺には言わないつもりらしい。基本的には自主性を重んじる俺だが、今回はスルー出来ないな。 「3日前ぐらいからか?」 俺の問いにピクリと表情が動く。 「なんのことですか?」 あくまで隠しとおすつもりらしい。 練習ノートを見返しながら、もっと早くに気づいてやるべきだったっと俺も反省する。 「左足が痛いんじゃないのか?」 彼女は下を向いて黙ってしまう。 練習ではメニューがこなせなかったり、たまに歩く時に引きずるような仕草が見えたのが気になっていたのだが、俺の予想は的中したらしい。 「なんで隠すんだ?悪化したら大変だろう。」 「・・すいません。」 麻衣子は泣きそうな顔をして、かすれ声で俺に謝る。泣くほど責めているつもりはないのだが、再発防止もかねて彼女からはおいおいなぜ言わなかったのかを聞かないとな。 「明日から別メニューだ。今日はもう練習せずに帰れ。伊瀬、お前家近くだろ?送ってやってくれ。」 「わかりました。」
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