スタートライン

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そう言われた俺は今日の被服室でのことを美沙紀さんに全て話した。 「で、どうすれば相手が泣かなくても良かったのか悩んでるのね?」 「はい。」 美沙紀さんはいつの間にか沸かしていたポットから紙コッブにお湯を注ぎコーヒーを作る。 確かに甘いものにはコーヒー合うって言うけど、俺にはまだ苦い。美沙紀さん大人だわ~ 「にがっ。」 美沙紀さんがコーヒーを吹き出しそうになったのを見て、脳内で苦いんかいっと壮大なツッコミを入れた。それが可笑しくてつい笑ってしまう。 「笑うんじゃないわよ」 笑われたのが恥ずかしかったのか、美沙紀さんは珍しく耳まで赤くして、少し大きな声で言った。 この反応からして美沙紀さんはもしかしたら少し無理をしてコーヒーを飲んだのかもしれない。ちょっと大人っぽくみせるために。 「そうね、涙の理由は予想するしかないけど、可能性としては2つね。1怒られたから、2気づかれたくなかったから。こればっかりは聞いてみないとわからないけど、アタシの予想だと2ね。その子って大人しかったり、けっこう影が薄かったりしない?」 「まあ騒ぐタイプではないかな。黙々と走ってるしね。目標に向かって努力出来るいい子だよ。」 「ならその子に明日会ったら、声をかけてあげな。ちゃんと見てるからって。」 「いつもちゃんと見てるけど」 全体を見ながら一人一人の動きも毎日見て練習ノートに記入している。 「言葉にして伝えな、多分その子気づいて欲しかったのよ。そして、不安だったと思うのよ。だからあなたが、ちゃんと見てるってこと伝えて上げれば多分涙の理由もわかると思うわ。」 「なるほど、そんなもんなんですかね?ちょっと明日声かけてみますね。」 確かに言葉にして上手く伝えてるかと言えばどよくわからない。受け手の捉え方にもよるしね。 まぁけど、同じ女性の意見は参考にさせて頂いてみよう。 「ってことで帰るわよ。」 「あれ、まだもう一つあるんですけど」 「相談は1日ひとつまで。帰るわよ。ほらっカバン持って。」 美沙紀さんはそう言うと、紙コッブをゴミ箱に捨てると、俺に自分のカバンを投げてくる。 「これは美沙紀さんのカバンでしょ。」 「相談料よ。駅まで付き合いな。」 「まぁしゃーないですね。」 相談料と言われれば、カバン持ちも納得するしかないな。 それに駅までは帰り道なので、一緒に帰っても特に遠回りにはならない。 「そう言えばあなた、お菓子で好きなものある?」 「お菓子なら、今はロールケーキかどら焼きが食べたいですね。そう言えばクラスメートにも同じこと今日聞かれましたよ。美沙紀さんは何が好きなんですか?」 福本さんに聞かれたのを思い出して、その時いろいろと考えたのですぐに好きなものを答える事が出来た。 福本さんにも伝えなきゃな。連絡しとくか、まあけどいっか。どうせ海人のついでだろうし。 また聞かれたら答えよ。 「フルーツ大福かな」 「ぽいですね。なんか絶対和菓子だと思いました。」 そんな雑談をしながら駅まで二人で他愛もない話をしながら楽しく帰った。 今思えばこの時に相談の続きをしても良かったと気付いたのは夜ベッドに入って寝る時だった。
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