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球はいきなり落下し、みしりと地面にめり込んでしまった。
そこは、遺体安置室の床だった。
床はゆっくりとへこみ、ひしゃげ、亀裂を作って球を地中に沈めていく。
死神はそれを、再び医者の姿になって見下ろしていた。
「てめぇが傷つけたのは、かみさんだけじゃねぇよな」
瞬き一つせずに、偽医者は言った。
「そっちの時間で言うところの昨日、仲間と賭けをしたんだがよ」
球がまた沈む。
「最初は賭けにならなくてな」
みしり‥‥‥
「てめぇは決して、誰にも詫びねぇだろうってんで」
ぱきん!
「仕方ねぇ、言い出しっぺの俺が詫びる側に回った。身内一人ぐらいにならまともな事すんじゃねぇかって思ってな。ったく、どうしてくれんだよ。ボロ負けじゃねぇか。てめえ、今まで自分がしてきたことわかってねぇだろう」
びきっ‥‥‥!
「『詫びる』と言う意味もな」
私は床下に引きずり込まれた。
「何だこれはぁぁぁぁっ!」
蟲どもの比ではなかった。赤く溶け、焼け爛れた岩の中を落ちる。
何度も呻き、喚き、いつの間にか言ったのだ。
いいかげん勘弁してくれと。
「あはは、なんだ、できんじゃねぇか!」
医者の姿のまま共に落ちながら、涼しい顔で死神は嗤う。
「てめぇはこれからてめぇが苦しめた人間全部の百足を味わうんだ。こいつは痛ぇなんてもんじゃねぇぞぉ」
こやつ‥‥‥思ってもいないくせに気の毒そうな顔を。
「全部だぞ? つまりな? その全部の人間の気持ちがわかるまで、てめぇは生まれ変われねぇ。こりゃ解放されんのはいつになるかねぇ」
「うるさいわっ‼」
熱さに頭(?)が煮え、喉(?)がひりついた。
「偉そうに‥‥‥何で‥‥‥何でそこまで貴様に‥‥‥言われにゃ‥‥‥ならんのだ‥‥‥見たところ‥‥‥まだ成りたての死神ふぜいがっ‥‥‥貴様に‥‥‥そ、そこまでの権限は‥‥‥無いだろうがっ」
若いと言われた死神は首を傾げた。
「俺がいつ、『死神』だって名乗ったよ」
「?‥‥‥黒いボロ服 ‥‥‥鎌と‥‥‥しゃれこうべ‥‥‥それ、に今、名札‥‥‥に」
「あ~あそうだったな。良く似合ってたろ? あれ一番のお気に入りでさ」
偽医者は満面の笑みで消え、再び姿を現した。
「こすぷれ。人の世で俺がハマったのは時代劇だけじゃねぇんだよ。で、こっちが俺の正装!」
その出で立ちに驚愕し、無い顔を引き攣らせたまま落下していく球を、もう追うのに飽きたのか、彼はその場でしばらく見ていた。
「さてと‥‥‥帰るか。これにて一件落着ってな」
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