犯行は完遂される

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犯行は完遂される

【犯人】  綺麗な人だな。  たまには映画でも観ようとレンタルビデオ店を訪れたら、この美しい人と目的の品が重なっていたようだ。陳腐(ちんぷ)な恋愛映画のように、一つだけ残されたDVDに手を伸ばし、ぶつかってしまった。ただし、借りようとしたのはラブストーリーではなく、『ワールド・スピード』というアクション映画だ。  それはそれとして謝罪しなければ。内心、舞い上がっているのを隠しながら。 「すみません」  表情や声音(こわね)は上手く取り繕えていると思う。昔、劇団に居たことに感謝だ。 「いえ、大丈夫です……」  彼女の声はどこか影があるが、むしろそれが魅力的に思える。可能であれば──この美しい人の心が欲しい。  事は予想よりも順調に進んでいる。  最初の殺害対象(ターゲット)に突き刺した中型ナイフを引き抜く。またすぐに突き刺す。 「──」  殺害対象(ターゲット)は無言。すでに死んでいる。  また引き抜き、また刺す。引き抜き、刺す。引き抜き、刺す。 「──」  私が相手にしている存在が、人間なのか人肉で出来た人形なのか分からなくなってきた。  だけどまだ終わらない。子宮のある辺りに何度も何度もナイフを刺す。殺害対象(ターゲット)の衣服が返り血を抑えてくれる。   「はぁはぁはぁ……」  いい加減疲れを覚えたころにナイフを止める。素早くショルダーバッグへ仕舞い込み、現場から離れる。大丈夫だ。誰にも見られてはいない。 「ははは……」  私は知らず知らずのうちに笑っていた。次は──。    夜の住宅街。 「あなt──!?」  ナイフを2人目の殺害対象(ターゲット)の腹部に突き刺す。 「っ!?!? ど、うし──」  何か言われる前に再度突き刺し、すぐに引き抜く。殺害対象(ターゲット)が倒れ、硬いアスファルトに頭部を強かに打ち付ける。  (わず)かに動いている。まだ生きているようだ。ほっといてもすぐに死にそうではある。  だが──ナイフを心臓に突き入れる。 「──!?」  一瞬だけ目を大きく開け、ゆっくりと閉じる。絶命したのだろう。 「……」    次いで、子宮を狙い、徹底的に滅多刺しにする。ただ殺すだけでは駄目。  死んでいるのも構わず、ナイフを刺す。刺す。刺す……。  おそらく20回以上は刺したはずだ。もういいか。 「ふー」  疲れた……。  廃墟になっている取り壊し予定らしき工場。  子宮を滅多刺しにする。頭の中に様々な感情が錯綜するが、手を止めはしない。  10回は刺したか? では仕上げだ。  ナイフの切っ先を心臓へ向ける。そして、突き入れる。  これでいい。3人目だ。    時計の秒針が耳障りだ。  ナイフを心臓へ押し込む。 「……」  
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