感染②

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感染②

フェンを最年少にして構成されたその小隊は軍隊長の他は、その任務の詳細について何も聞かされていなかった 昨日の晩、夕食が終わり、フェン達が宿舎に集まって寛いでいると、放送のスピーカーにより、フェン達の小隊に招集の命令の声が聞こえた フェン達が集合場所に着くと、軍隊長が 「明朝、我が小隊は実践任務に就く 集合は明朝、マルロクマルマル(6:00) 尚、任務は実戦装備とする、以上!」 とだけ言われた 先輩達に聞いてはみたが、結局、事の詳細を知る者は誰一人も居なかった 早朝に小隊は武器携帯の実戦装備をして集合すると、二台のトラックが待機しており、フェン達小隊はそのトラックの荷台に載せられた 程なくして、トラックは都の医療センターの中に到着し、白衣を着た人達が乗り合わせているバンと合流すると、再びその一行は出発した 「良いかよく聞け! 我々の今回の任務は医師の警護と治安の維持である 目的地はハバネ村、村民数は七十五名前後、現時点で暴動等の情報は入っていないが、念の為、我々は実戦装備にて任務にあたる ただし、対象が一般人である為、銃火器の使用は小隊長の指示がある迄、一切禁止とする、安全装置は掛けておく様に!」 走るトラックの中で、軍隊長の補佐が、その任務と注意事項を説明した 「イエッサー!!」 我々にはこの言葉の使用しか許可されていない  トラックはガタガタと舗装されていない道路に入り、暫く進むと 『ハバネ村』と書いてある小さな案内標識が見えた フェンはトラックの幌の隙間から外を覗いた 村の入り口に続く舗装すらされていないガタガタ道、生い茂る椰子の木、荒れ果て、今では野生種と化しているバナナの林… フェンは自分の故郷の村に似ているな… と、その胸に、ふと懐かしさが込み上げた 村の入り口に入ると、フェンの視線の先に人影が目に映った 一瞬、フェンにはその人影が徘徊をしている人の様に見えた フェンの村にも村外れに、一人暮らしのちょっと痴呆の入ったお婆ちゃんが居て、よく村の周りを徘徊していた事を思い出したからだ トラックはそのスピードを少し緩めて、ゆっくりとその人影に近づいて行った その人影が徐々に近づいて来ると、その者が発する「ウー、ウー」と言う声が聞こえて来た 目は虚で、充血し、唸り声を上げていた フェンを始め、部隊の全ての人間が、一瞬で心の糸が張り詰めたのを感じた これは…此処で、ただならぬ事が起こっている!… だが、トラックは其処で停止する事なく 村の集落目指して更にゆっくりお進んで行く… と、進路である道の真ん中に、何かが横たわっているのを発見し、トラックは一層その速度を緩め、その何か分からぬ障害物に近づいて行った 近づいて見れば、その、横たわってっているのは紛れもなく人間で、そして、その傍にもう一人、前屈みの状態で蹲(うずくま)っていた トラックはその手前で、完全に停止し、トラックの助手席から小隊長がアサルト銃を手に持ち、ソロリソロリと近づいて行った 我々隊員も数名程が、ソロソロと荷台から降り、小隊長に続いた フェンもトラックから降り、後に続いた その、道路の中央に、仰向けで横たわっている人間は、明らかに死亡しており、衣服は乾いた血色に染まっていた、その身体の周りにもどす黒い塊が散らばっており、その身体の下の地面も血を吸って黒く染まってていた フェンは、その傍らで蹲って居る人間は、その者の死を嘆き悲しんでいるのだろうか? と思ったが、それにしては何か様子がおかしかった 『クチャッ クチャッ グチャッ グチャ…』 何やら奇妙な音が聞こえる 小隊長が銃を構えた格好のまま、少し距離のある所から 「ハバネ村の住人でしょうか?」 と声を掛けると その人間はクルッと振り返った その人間の口元は真っ赤に染まっていた! 「ゔるるるる…」 その人間は最早人間の出す声では無い様な唸り声を上げた その人間はまるでそれは威嚇の声だったかの様に、またクルリと向き直すと、再び 『グチャッグチャッグチャッ』 とその横たわった身体に貪りついた 「止めろ!」 と言って小隊長はその人間の肩を掴み、その身体から引き剥がそうとすると 「ウバァー!」 と、叫びながらその身を起こし、小隊長の首元目掛けその血まみれの口を大きく開け、襲いかかってきた 我々も反応してサッと銃を持ち替え身構えたが、小隊長は全く怯む事なく、持っていたアサルト銃の長さを利用してその攻撃を躱(かわ)し防御した、 するとその人間はその口元の攻撃先を変え、小隊長の腕にガブリ!と噛み付いた、小隊長は ウッ!と一瞬、苦い顔をしたが、冷静な対応で腰を落とし、両足に重心を溜めると、一気にその銃身を軸にしてその人間の身体を絡め取り、うつ伏せに引き倒し、そして、その自身の身体を重りにして押さえ付ける形になって取り押さえた それでも、その人間は尚も暴れ続け、 「ヴバァーヴバァー!」 と唸り声を上げている 小隊長補佐と何人かのベテラン兵士がが、小隊長の元へ駆け寄り、馬乗りになり、その人間の両手を後ろ手に、手際良く拘束帯で縛り上げた その人間はうつ伏せて身動きが取れない状態ながら、暴れ続け、尚も 「ヴーヴー」 と唸り声を上げていたが、小隊長はもう既にその人間の事は意に返さない様子で、その横たわって居る身体の元へ近づき、立ち膝になりながら、その遺体の状態を調べ始めた フェンを始め、まだ若手の兵士達は、その一連の出来事だけで、身が縮む思いになり、腰が既に及び腰になっていた フェンは、この一瞬で腰はガクガクと震え出し、もう、この場からただだだ逃げ出したい衝動に駆られていた すると、突如として 「きゃーー!!」 と言う悲鳴が聞こえ、兵士達が一斉に、その声の方向に振り返ると 後続の医療チームが乗っているバンの周りに人が群がり、集って居るのが見えた 幾人かの兵士が其処に駆け寄っていくのが見えて、フェンもその後に続いた バンの周りに三人の人影が見え、 バンの外から 「ヴゥゥヴゥゥ…」 と、中の人間に襲いかかるかの様な勢いで、バンの窓を叩いている 「確保! 銃は使用するな!拘束帯を使え!」 と小隊長補佐が叫んだ フェンは腰が引けてその者達に近づく事は出来なかった と、若手の兵士の一人がダッ!っとその中の一人に近づき、その者の首筋付近の服をグイッっと掴んでバンから引き剥がし、うつ伏せに寝かすと、その者の背中に片膝を乗せ、体重を掛け 「拘束具を早く!」 と叫んでいる それを皮切りに、兵士が、残る二人を同じ様にバンから引き剥がすと二人、三人がかりでその者達を地面に押さえ込んで、後ろ手に拘束帯で縛り上げた フェンは銃を両手で抱えたまま、その作業に何も加われないまま、腰をガクガクとさせ、その場から一歩も動けずに、その拘束劇を見守っていた 全員を取り押さえ終わると、小隊長が近づき、 「負傷者は名乗り出ろ! 小隊補佐、確認しろ」 (小隊補佐)「はっ!」 とやり取りし、バンに近づいて、 バンの中の医師達に声を掛けている 小隊長は医師達との会話が終わると 部隊を集め 「二名はこの場に留まり、取り押さえた者達を見張れ、残りは更に村内を捜索、その後、村の集会場に陣営を造る 見張りの二人に限り銃火器の使用を許可する ただし、人に対しての発砲は禁止、使用は威嚇射撃のみとする、陣営設置後に迎えをよこす 連絡は無線を使用、補佐、無線機を用意しろ、人員選抜は補佐に任せる!」 (小隊補佐)「はっ!タック、グエン、二名は此処に残れ、無線はZ-2回線を使用!」 「イエッサー!」 フェンを含めその他の兵士は、再びトラックに乗り込み、更に村深くに進んだ 道の右、左にパラパラと建物が見え始めてきて、その建物の影からヌッ!と出て来る人影が見えた 顔は俯き加減で、両手をダランと下げて、前に後ろにその身体が揺れている、その身体が前にのめった瞬間に足が一歩前へ、そしてまた身体を仰け反らせ、その身体が再び前にのめって、また一方前へ出る、そんな歩き方だった 小隊長の指示でトラックは停止し、兵士は全員降りろ、という指示をした フェン達が、トラックから降りると、 「此処から先は全隊員、徒歩で行く 村人は健常者は保護、発見次第トラック荷台に載せろ、おかしい動きをした者は全て取り押さえて拘束、その場に置いて行き、後で回収とする 尚、重火器の使用は依然として禁止、安全装置のロックを確認しろ 負傷した者は随時、補佐に名乗り出ろ 編隊はトラックを挟んで、右一列、左一列、隊先頭はヴェンと私が行く、隊列を崩すな、以上!」 「イエッサー!」 兵士達は降りてトラックを挟んで右、左に隊列を組むと先程建物の陰に隠れた者が虚な目をして「ヴー、ヴー」と唸りながら此方に近づいて来た 小隊長は素早く飛びかかり、その者の手を押さえると後ろに捩じり上げ、その場にうつ伏せに倒し 「拘束!」 と叫んだ、小隊長と共に先頭に居たヴェンが、その両手を縛り上げると、その者は尚も涎をたらしながら、「ヴーヴー」と呻いているが、もう既に身動き出来なく、その場でゴロゴロと転がっている 小隊長は 「進むぞ」 と言ってまた元の陣形になってその隊を前に進めた そして、二人、三人、四人と徘徊している村人を次々と拘束して行き、隊はやがて、村の集会場のある村の中心部が見え始めて来た 其処は村の中で唯一の鉄筋で造られた集会場を前に、少し大きな感じの広場になって居たが、其処にはもう既に数名の徘徊者が見えている フェンを始め、兵士達は一層の緊張を持って前に進むと、広場の丁度真ん中に横たわっている遺体に、三人の徘徊者が取り囲み、その血肉を貪っていた 一人は腕と思われるその遺体の身体の一部を両手に持ってしゃぶりついており、一人は顔に噛み付き脳髄を啜り、もう一人はその内臓を引き出し、両手に持ちそれを食らっている、その掴んでいる内臓一部ははまだ身体と繋がっていて、その者がその持っている手を引っ張ると、その遺体の腰の部分が引かれてピクンピクンと痙攣している様に見えた フェンと、若手の幾名かの兵士はその光景を見て、耐えられなくなり、その場で蹲(うずくま)って嘔吐した 小隊長は勇敢にもその一人一人をその遺体から引き剥がし、順番に拘束させていく、 その三人の拘束を終えると、 「今晩、この集会場に陣営を設置する トラックを此処に止め、隊列を組み直す、構成は三人編成、編成後、各々が陣営周辺を捜索、引き続き、不審者は拘束、その場に置け、健常者が居ればその者を警護し、至急この陣営に帰還せよ、健常者を保護し次第、再び捜索、尚、捜索終了予定時刻はイチナナマルマル(17:00)とする 各隊、無線は携帯、各自連絡は怠るな 隊編成後の捜索に関しては、銃火器の使用は威嚇の場合のみ許可する 尚、ヴェン、タックはこの場に残って陣営の設置、私と、補佐は指揮、及び、情報の集約と収集に当たる 陣営設置後、速やかに医師チームには集会場に移動してもらう、 一番に、集会場の安全確認、2チーム先行しろ 補佐!」 「は! クワット、タン、フェン テッド、ティエン、アック 集会場の確認、行け! 無線連絡を怠るな!」 「イエッサー!」
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