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アホカラス
儂のグループの若カラスで「アホ」と鳴くカラスがいる。人間は「アホ」とカラスに言われると大層腹を立てるが、このアホカラスは自分のことを言っている。
どれだけアホかというと、生ゴミを狙う瞬間に必ず「アホ」と鳴く。
「人間に気づかれるやないか。アホ」
儂のような知恵のあるカラスになると、嘴で網を少し上に持ち上げすばやくビニール袋をくわえて網から引きずり出す。このタイミングが絶妙なのだが、アホカラスはそれができない。
嘴で網を上げるところまでは真似をするのだが、待ちきれないのでそのままビニール袋もくわえて引こうとする。網とビニール袋の両方をくわえて引くものだから取り出せない。
「動くわけないやろ。アホ」
ある時、やはり網を持ち上げている最中に中のビニール袋に手を、いや嘴を出したところまではよかったが、持ち上げた網が自分の上にすっぽり落ちてきた。
網の中に入り込んだアホカラスはしばらくの間、網の中でもがいていたが出るに出られなくなった。
今は鳥獣保護法で儂らカラスも守られているので、放っておいたろかと思ったが、
「烏の目にも涙」
泣いていたので助けてやった。
先日、近くのマンションを覗いていると──断っておくが我々カラスは窓から中を覗いても訴えられることはない──テレビが映っていて、人間でも「アホ」としか言わない奴がいることを知った。
眼鏡をかけたひょろひょろの男だが、そいつが「アホ」と言うたびに笑い声が聞こえる。
「アホ」だけであれだけの笑いが取れるのなら、うちのアホカラスが網の中でもがいている様子をテレビで流したら、それこそ大爆笑間違いない。残念だがカラスはテレビに出られない。
「アホ」と鳴くカラスは他の縄張りにもいる。しかし、うちのアホカラスは自分に対して言っているので哀愁がこもっている。
ところが残念だが、その違いを人間は分かってくれない。
この前も、 小学生の列の上で「アホ」と鳴いたものだから、一番頭の悪そうな奴が腹を立て、いきなりアホカラス目がけて石を投げやがった。
こんな時、不思議なくらいによく当たる。石はアホカラスの尻に命中し、
「アホ」と言って飛んで逃げた。
この「アホ」は明らかに石を投げつけた子供に対して言った鳴き声で、怒りがこもっていた。
ある休日、バス亭に何組かの親子のグループがいた。遊びに行くところなのか子供たちが騒いでいる。
しばらく電柱の上で聞いていたが何を言っているのかさっぱりわからない。
もちろん儂は人間の言葉はわからない。けれども長年人間と共に暮らしてきたのだから、言葉かそうでないかくらいはわかる。
聞こえたまま並べてみると
「わぁー」「ぎぁー」「ぐぁー」「うぉー」「きー」「きゃーきゃー」「わぁーん」「ぎょー」「だー」
「まだ?」おっと、これは言葉のようだ。
こんな具合で、最初、近くに住む山ザルのグループかと思った。
隣の電柱であのアホカラスも聞いていたが、さすがに我慢できなくなったのか「アホ」と全く哀愁のこもっていない鳴声を残して飛び去ってしまった。
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