カラスの血縁

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カラスの血縁

 人間社会では「カラスなぜ鳴くの……かわいい七つの子があるからよ」という歌があるそうだが、 断っておく、カラスは七羽の子を育てるほどの甲斐性はない。  私は三羽烏兄弟の末っ子だ。 というと兄、弟の区別があると勘違いされるが、 そもそも儂らカラスは卵から生まれるので、 卵が産み落とされた順か、 卵から孵った順か、どちらで兄、弟を決めるかなどという取り決めなどない。  ただ、私が生まれた時すでに兄の二羽が私の目の前にいたので、私は末っ子だと自覚しているだけである。  問題は、最初のうちは親がせっせと餌を運んでくれていたが、一週間もすると勝手に餌を探せという厳しい仕打ちを受けた。たった一週間でだ。  かわいそうに、兄の一羽は二週間目で死んだ。栄養失調だった。  もう一羽の兄は、三週間目にもっとたらふく食える場所を探すと言って旅立っていった。それっきり会っていない。  もっとも、カラスはみんな似ているし、嗅覚のすこぶる鈍い儂らは体臭で身内を判別する能力はない。だから、どこかで出会っていても兄だと気づくことはない。  アホカラスや儂のように、特別な鳴声だけが個性の表し方だと思ってもらってよい。だから、カラスの鳴声を「カーカー」などといった単純な表し方で済ませてほしくない。  「カ」の後に小さくァの音を入れる奴「カァー、カァー」や、「カ」の音がクになる奴「クークー」もいる。十カラス十色なのだ。  はっきり言うと、儂の縄張りにいる十羽のカラスの関係もよくわからない。 血の繋がりがあるのかないのか誰も分からない。人間のように記録があるわけでもなく、儂らの記憶もそれほど長く続くものでもないからだ。  二代、三代前には親戚だったのかどうか全く見当もつかない。まあ、これだけ顔、形が似ているのだから「カラス、みな兄弟」と言っても何ら問題はない。  この機会に儂の縄張りの十羽のカラスを紹介をしておこう。  もうお気づきだと思うが、「儂の縄張り」と言っているが、儂がボスというわけではない。仲間といっても、外から「流れカラス」がやってきた時、十羽が協力して追っ払う程度で、そんなに強い絆があるわけではない。  嫁さんが欲しくなったら別の縄張りから奪ってくることもあるし、逆に盗られることもある。餌場をあさる同士といったらいいだろう。  では紹介する。長老カラス(オス)、年寄りカラスA(オス)、年寄りカラスB(メス)、儂オォコワカラス(オス)、中年カラス(メス)、若カラスA(オス)、 若カラスB(オス)、若カラスC(メス)、若カラスD(メス)、アホカラス(オス)以上である。  念のために、すべて儂がつけた呼び方で、名前を持っているわけではない。 普段はカラス語で「オイ」とか「コラ」とか呼んでいる。人間のように三人称を話題にしゃべることは全くないからこれで十分である。  そうそう、A、B……、これはコラボしている書き手が考えたことでカラスにわかるわけはない。
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