オンラインよしこ

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私の名は美子。ミコじゃありません、もちろんよしこって読みます。職業は女優、タレント。 「どうしたらいいんでしょう。ストーカーに住所を突き止められたようなのです。毎日『お帰り』とか『今日の撮影よかったよ』とか手紙が入っていて」 そう警察に相談したら、ここを紹介されました。 若い頃、ジーンズを脱ぐCMでブレイクしたのだけど、今や知性派のクイズ女王で売ってます。一応、健康美が信条なんですが、この年になっても水着のカレンダーが売り切れたので、世間様にも通じているようで嬉しいです。ですが、そんな負の側面もあるのが辛いところでした。 「おめでとうございます、『オンラインよしこ』への登録が完了しました」 あら、簡単。 元々仕事柄、家を空ける時間も長くて、1年のうち半分くらい撮影であちこち出ていましたから。自治体登録がこのような形になると利便性は上がりますね。ええ、住所を持たず、行く先々で気に入った賃貸やウィークリーマンションなど転々としています。それ、断捨離にもいいんですよ。大事なもの全てがスーツケース一つに収まるよう気を付ける習慣がつきますから。 そもそも私、個人名が大事なこういうお仕事だから、結婚しても姓を変えなかったんです。加えて夫も私も一人っ子で、それぞれの家名を途絶えさせたくないという思いがあった。それで籍を入れなかったんですよ。そうしたある日。 「ううう」 夫が倒れました。救急車を呼んだけど、まずそこで同乗するのを渋られました。配偶者じゃないと、ってことだけど、これこれこういう理由で婚姻届を出していないだけで、とクドクド説明してほぼ強引に乗り込みましたよ。 病院へ行ったら即手術。そのときの同意書へのサインも、籍の入っていない私ではダメだと言われて、再びさんざん説明したんだけど……結局夫の亡くなった姉の息子に連絡を取ってサインしてもらいましたよ。後から聞いたらそれ、ケースワーカーさんに相談すればもう少し何とかなったかも、ってことらしいですけど。 夫との間に子供はできませんでした。でも、それでよかったと思うこともあります。こういう「事実婚」では非嫡出子扱いになってしまいますから。納得いきませんけど。 年度末に確定申告をするときも、そのたびに腹が立ってました。家族の戸籍が同じでないと、所得税の配偶者控除や医療費控除の合算ができないなどの不都合がある。結果、よけいに税金を取られるわけですからね。 ああすみません、それが「オンラインよしこ」でこうして顔見てお話しするだけでいいと。救急車も病院も税務署も、「オンラインよしこ」につなげて「はい大丈夫です」との保証をしてもらうだけでいいと。 今までの不合理が一切なくなりますね。何だか夢みたいです。ええ、本当にシンプルでわかりやすくて助かります。
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