オンラインよしこ

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わたくしの名はよし子。夫が最近亡くなりました。ええ、こちらへ相談すれば死後手続きのことなど万事良きに計らっていただけるとか。 よしこという名を持つ方々のオンライン、というか、集団? 同じ名前のよしみってわけですわね。役所の方、弁護士の方、税理士の方、いろいろといらっしゃいますから、こうしてつなげるだけで全て捗っていきますのね。 夫は手広く商売をやっておりまして、財産家、といっていいかと思います。ただ、そういう男性のよくあるパターンとして、女癖が悪かった。わたくしは正妻ですが、他に2人愛人がおりまして。え? 夫が白状? まさか。そんなことくらい、正妻ならお見通しですわよ。 で、こういったオンラインでの自治体の場合、わたくしが正式な妻という証明を出していただいて相続が成立するわけですかしら。それって、この顔と声で証明してくださるんですのよね。とにかく急ぎ全部よきに計らってくださいませね。もちろん、2人の愛人にはびた一文渡らぬよう手配していただきたいわ。 「ちょっと待った! あなた、よし子さんじゃありませんね?」 あら。何をおっしゃって――。 「こちらに同じよし子さんがおられます」 画面に、公務員のよしこの他に、よし子が映った。と思ったら、もう1人。全部で4分割になった。 「何さ、わる子、あんたに相続権なんかないでしょうが」 「ふつ子の言う通りですわ。考えることが小賢しいですわね」 可愛いエプロン姿のふつ子に和服をキッチリ着こなしたよし子のご両人がガタガタ言う。ハハ、ふつ子はあたしと同じ愛人で、その和服のよし子が正妻。 ああそうさ、あたしはわる子。よし子のフリしてただけ。でもこういうシステムなら、「わたくしの名前はよしこです」って言った者勝ちじゃんか。 「わる子なら『オンラインわるこ』でどうにかしたらいかがなの?」 よし子の正統派な良いご意見が飛んできた。勝ち誇った顔。 フンそうさ、「わるこ」のオンラインじゃ叶うわけないからね。世の中に「わるこ」なんて名前の女、他にどこにいる? 「オンラインわるこ」に存在するのはあたしだけ。弁護士も税理士も担当の公務員すらいない。あたし一人で全部やるしかない。 でも「よしこ」は違う。だって算数の教科書の例題にだって登場するくらいだ。世の中には大勢のよしこがいるのだ。多い名前のオンラインに参加した方が有利なんだよね。 「それ、ちょっとわかるわ……」 「何を言っているんです、ふつ子ったら」 意見が一致してるかと思ったふつ子とよし子が揉め出した。そりゃふつ子だって同じだよな。「オンラインふつこ」だっておそらく一人きり。 てわけで、よし子のフリして「オンラインよしこ」で頼んだ方が早い。だって簡単に申請登録できちゃったもの。
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