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「笹目、ごめんね。私の都合で放課後にしてもらって」
「いいよ全然」
一瞬だけ笑顔を見せた笹目は、すぐに飄々として目をそらしてしまう。
(マジ、私に興味ないんだろうな)
当番なんてかったるいと思っていたけれど、今回笹目と一緒だって気づいて声をかけてみた。
真面目そうで地味な同級生。
実はわりと背も高いし、結構シュッとした顔だったりして悪くないんだけれど、うちの学校では面白いが正義みたいなところがあるから、おとなしいとか、陰キャっぽい性格だとそれだけでスルーされてしまうみたいだ。
だから皆気づいていないんだよな。笹目が最近ちょっと、雰囲気が変わったこと。
まあ、彼氏だっているし別に好きとかじゃないんだけれど。
「ねえ笹目、帰り喫茶店行かない? 駅前に私がバイトしてる店があってね、レトロなんだけど結構落ち着くよー」
職員室から教室へ戻る廊下で立ち止まった笹目は、振り向いて少し首を傾げた。
「バイトしてるの?」
「あ、うん。先生には内緒にしてね」
「それは、もちろん」
おっ、めずらしく興味持ったかな?
「もしかして笹目もバイトしたいとか?」
「えっと、あ、うん……そうかも。うちばーちゃんとふたり暮らしだから、小遣いくらい稼ぎたいとは思ってるけど」
「そうなんだ。じゃあ、うちの喫茶店とかどう? 今募集してたかな。店長に相談してみようか?」
「えっ、でも……」
「まあ話聞くだけなら別にたいしたことじゃないでしょ」
「そうかなぁ」
「そうだよ。早速行こ!」
なんだかちょっと楽しくなってきた。スキップしそうな勢いで鞄をとり帰ろうとするが、笹目はそこから動かない。
「どうかした?」
「あー今日はごめん、買い物があるから無理」
「え、もしかして服とか見るの? よかったらつきあうよ」
「いや大丈夫。スーパーだし」
「そっかー残念。じゃあまた今度」
一緒に住んでいるの、おばあちゃんだけとか言ってたし、いろいろあるのかもな。
「じゃあ店長には聞いてみるよ。お店、駅前の『おきなぐさ』って店だからね!」
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