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もしリスナーだったら簡単に落とせる、などと甘い考えで葵に近づいたのであれば、ふぅくん、いや冬音は、好きな人ができたからと配信活動とプライベートとの両立に悩み、挙げ句配信活動を終わりにする決断はしないだろう。
それに、冬音は今の今まで自分が配信活動をしていること、ふぅくんであったことを葵に言わなかった。それが、冬音の誠意というものなのだろう。
よかった、と微笑んだ冬音は、葵に近づくと頬に軽くキスをした。こうした不意にキュンとさせることや、葵が喜ぶ言葉を選ぶのが上手なのは、さすが女性向けの配信をしていた冬音と言うべきか。
軽く見つめ合い、やや力強い程に抱きしめられた葵の耳元で冬音が話す。
大好きな声が、イヤホンを通さずに聞こえる。それだけで、幸せの絶頂に近い。
「そうだ、葵ちゃんはさ、こっそり推してた? それとも、結構絡んでくれてた?」
「絡みに行ってた方だと思うよ」
「本当? じゃあ名前知ってるかな」
「どうだろう? えっとね私ネットでは」
名前を言おうとすると、葵の口は大きな手に塞がれた。
ちょっと、これ……、心臓飛び出そうなんだけど。
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