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 ベッドの上で落ち着いたのは午後十時十分。推しの定時配信には十分の遅刻である。  急いでスマホにイヤホンを指し、一分一秒を惜しみながら先端を耳に突っ込む。  そう、私の最高の癒やし時間とは、いわゆるイケボと呼ばれる声で活動する配信者、ふぅくんのライブ配信を聞くことである。ふぅくんとは一切顔出しをせず、中低音のイケボを生かしてライブ配信を行っているとっても可愛らしい男の子である。年はたしか、数個下の大学生だったはず。 顔は見たことはないが、声や話し方から醸し出される雰囲気は、かっこよくそして何より可愛く、愛でたくなるような男の子。そして可愛いだけではなく、時々えっちなこともするところが彼の沼にはまるポイントだろう。そして彼は、配信サイトないでトップを争うような人気者。  ……って私は誰に説明してるの?  我に返り、葵は今日も今日とて彼の配信を聞く。今でこそ配信の閲覧者が四桁を優に超えるふぅくんであるが、活動初期から推している葵のことはおそらく認知してくれている。だから今日も、コメントを打つと「お、いつも来てくれる子」という雰囲気でコメントを読んでくれる。 《あー @ah_**** : ふぅくん、こんばんは! 10分遅刻しちゃった…》 『お、こんばんは! いらっしゃい、遅刻大丈夫だよ』  あぁ! 今日もかっこいい!  このたった五秒にも満たないの彼からの言葉で、葵の一日の疲れは吹っ飛ぶ。残業の疲れも、上司への恨みも、何もかも。葵に残ったのは、幸せな気持ちと大好きなふぅくんの声だけ。
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