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 このたった五秒にも満たないの彼からの言葉で、葵の一日の疲れは吹っ飛ぶ。残業の疲れも、上司への恨みも、何もかも。葵に残ったのは、幸せな気持ちと大好きなふぅくんの声だけ。  ふぅくんの配信がなかったら、どれだけ心がすさんでいたことだろうか。そんなことは考えただけで恐ろしくなる。  ふぅくんの配信はたいてい午後十時から二時間行われる。何か企画をしたり、カラオケで歌を歌う配信をしてくれたり、キュンキュンするようなセリフを読んでくれたり、やることを事前に決めている日もある。しかし今日はそうではなく、雑談をしている。  遅れた十分を取り返すように、真剣にイヤホンに耳を傾ける。  声だけで人をこんなに癒やせるなんて、ふぅくんは天才なのかな。  そんなことを考えつつ、コメントもぽちぽち打ちつつ、葵は聞けなかった十分間で話された雑談の内容をざっと掴んだ。今は実家暮らしをしているふぅくんであるが、ついに一人暮らしを始めるのだという。
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