第20話 <それは目では見えないものだった>

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第20話 <それは目では見えないものだった>

出発の時。
 優はリヤド近くの駐車場まで見送りに来てくれた。
 「それじゃ」
 いつものように淡々とした様子で優は言った。 「優はこれからどうするの?」
 「うーん、もうちょっとモロッコを見ていくよ」
 「そう、気をつけて」
 モハメッドがトランクに荷物を入れて、私も車に乗り込んだ。 
 優はモハメッドを見ると 「見つけたよ!」と言い、
 モハメッドは親指をたててニッと笑った。 

何だろう?と思いながらも優に言った。
 「ありがとう、いろいろあったけど楽しかった」
 「うん、俺も。 ありがとう」
 真っ直ぐな、澄んだ目だった。
 「Here we go!」
 モハメッドが言い車は動き出した。
 手を振る優に日の光が降り注いで輝いて見える。
 やっぱりあなたは最後まで王子だね。
 自分でも意外なほど泣かなかった。 車が優から遠ざかっても後ろを振り向かなかった。 
前だけを真っ直ぐ見ていた。
 途中、信号待ちの時に、モハメッドが小さな包みを手渡した。
 「プレゼント!」
 中を開けるとローズウォーターとアルガンオイルのセットだった。
 モハメッドは「こういうの好きでしょう?」とウインクした。
 「サンキュー!」
 私はモハメッドに嫌な思いをさせたこともあったのに、 こんなサプライズ。
 さすがに涙がこみあげてきそうになった。
 「ワンモア」 とモハメッドは人差し指をたてて、小さな袋を差し出した。
 「ユーから。 自分であげなよって言ったんだけど恥ずかしいからって」
 中を開けてみると、 綺麗な装飾の付いた小瓶に入ったサハラの砂だった。 

それと一緒に小さなメモ書きも入っていて、メモを
開くと 「ここには砂漠の井戸が入っています」と書いてあった。
 fef77e58-6c60-4dc5-b9a1-2eafd799dfeb モハメッドが言った。 「君が一人でランチをしている時に、二人で話した事があったんだ。 
『日本は平和でとても豊かな国なのに、君もナミも悲しい顔に見える。 なんでなの?』
って彼に聞いたんだ。
 彼はその後考え込んでしまったんだけど、 
『探し物が見つからない人が多いんだよ、日本は』と言った。 
『何を探しているかすらわからない……』って笑ってた。 
でもさっき僕に『見つけたよ!』って言ったよ」
 気がつくとぼろぼろと大粒の涙がこぼれていた。 よくわからないけど、とても暖かな涙。
 「Are you loved?」
 モハメッドが聞いた。 「うん」と私は頷いた。

 サハラ砂漠に不時着した星の王子さまの主人公は、 旅の終盤に見つけた井戸で王子さまと一緒に水を飲んだ。 一人で汲んだ水だったら普通の味だっただろうけど、 共に旅をしてきた王子さまと二人で汲んで 飲んだ水は特別おいしかった。 星の王子様に出てくるキツネのセリフ。 本当だ、物語の中でキツネが言っていたとおりだ。 普通の水だって普通の砂だって、 そのまま見ればただの水、ただの砂。 でも、小瓶の中の砂が特別美しくキラキラ輝いているのは、 あなたがくれた砂だからなんだね。

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