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噴火口
ようやっとここまで来られるようになった。
ザクロ、ツキシロ、テンの三人は、噴火口を見下ろす北側の頂に立っていた。眼下には、熱風逆巻くマグマが滾っている。
黒く冷えた表面がひび割れると、下から赤い溶岩が盛り上がり入れ替わるという営みを飽かず繰り返していた。
不思議と、見入ってしまう光景だった。
テンの上着のフードから身を乗り出したタツマキが、キュルキュルと小さな声を上げた。
「美味そうなのは解るが、お前が食いに行けるのは、もうちっと羽が役に立つようになってからだな。今行ったら、食い物に溺れるぞ」
タツマキの呟きにザクロが答えた。
あれが美味そうに見えるんだ……、テンは感慨深げに言った。
「やっぱ、あっちーな、ここ」
ツキシロが目深に被った白いフードの下から上気した顔をのぞかせた。
火の山への探索にツキシロまで同行したのは、石の卵の竪穴から横に広がる洞窟の奥にある瑪瑙層を、ザクロが見せたがったからだった。
今ではすっかり谷の者と打ち解けて、目隠し無しで付き合えるようになったツキシロは、玄の国でもそうだったように持ち前の働き者っぷりで始終忙しくしている。そんなわけで仕事の少ない冬場にしか、連れ出せなくなっていた。
この度は、ザクロ企画の「ツキシロ息抜きツアー」。なるべく楽なルート選びから荷物持ちまで至れり尽くせりだ。下準備にはテンも尽力した。
下山して平地に着いてから、ツキシロは山頂を振り仰いだ。
「粘調性の高い溶岩だったんだな。この様子だと、山ごと一度吹き飛んでから、火口から吹きあがった溶岩が改めて山を形勢したみたいな感じに見える」
「ああ……。以前の優雅な稜線の面影はどこにもない」
ザクロも振り向いた。
テンは、フードの中から這い出したタツマキを頭の上に乗せて、例の竪穴へ向かうルートを眺めていた。
今日は、ニンゲンの気配はない。
嫌な臭いもしない。
幸いと乾いた晴天。
テンが思わず口笛を吹くと、タツマキも合わせて歌いだした。
今度はテンに向いたツキシロが笑みをうかべた。
「テン、いい顔するようになった」
「だな」
ザクロは背にした背嚢を揺すり上げると、ツキシロの肩に触れて促した。軽く頷いてツキシロが歩き出す。
ここへ来る前、黄の国の商港でセイランに会ったことを、ツキシロは当たり障りなくテンに語った。テンを不安にさせるようなセイランの言動も、馴染みの元船員を失ったが故に感傷的になっていたからと伝えたことで、幾分かテンも安堵の表情を見せた。
いずれその時は来るにしても、今ではない。
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