君をスカウトだ!

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 オーディション会場となる練習スタジオは整った顔立ちの青年達で溢れていた。年の頃、十代後半から二十代前半といったところだ。なかなかの混雑ながらどこか清涼さを感じさせるのはイケメン達のなせる業か。  数多の男たちを見て、七瀬が渋い顔をする。 「こんなにいるなら、オレ帰っていいですか? バイト代もいらないんで歩いて帰りますから」 「それは困るな。あくまで誰が連れてきたかが重要なんだよ。私が連れてきたのは残念ながら君一人だ」 「何だ、江戸。たった一人かよ」  ほぼ無表情だった一の口の端が歪み、二人の背後にスーツ姿の大柄な男が現れる。振り返りもせず、一が答える。 「量より質なんですよ……犬飼さん」 「質ねえ。オレは今回凄いぜ! ミスターP大グランプリ! 原宿のカリスマイケメン店員! 高校生ながら既にフォロワー三万人の八王子のプリンス!」  犬飼の後ろの青年たちが一に愛想のいい笑顔を向ける。  皆の一様に小慣れたホストみたいな表情に、一は顔色一つ変えない。 「ご苦労様です。違う事務所探した方がいいですよ」 「言うねえ。そんなにお気に入りなのか? ベテランマネージャーのオレが見てやろう」  犬飼は七瀬の前に仁王立ちし、下から上まで遠慮なく見つめる。  見られる七瀬も、自ずと犬飼を見た。 ガタイは犬というより熊。だが顔は犬系、愛嬌のある日本犬。これは七瀬の感想である。四十代の半ば、背も高いが肩幅も広く腕も太い。護衛という意味ではとても頼もしいマネージャーではあった。  一方、七瀬の品定めを終えた犬飼は、ゴキゴキと太い首を回す。 「うーん、顔も小せえしスタイルは悪くねえが……全体的に覇気がねえな。猫背だしちょっと、いやかなり地味じゃないか」  犬飼の遠慮のない言葉に七瀬は逆に安堵する。その評価は世間一般の答えだ。わざわざ自分を選んだ一こそ変だ。 「最近の若者はそんなものです。頑張るとかダルイしダサいそうです。そうだな? 城木く……シロキン!」 「変なあだ名つけないでください。そもそもオレは……」  そこで、会場を大きな銅鑼の音が貫いた。スピーカーからの音ではなく実際の楽器がスタジオの前方に備えられていた。ワンワンワーンと反響し体中を揺らす。犬飼と一の表情が変わった。一様に引き締まった顔で部屋の奥を見つめる。 「何ですか?」  一が眼鏡の縁を押し上げる。 「マドモアゼルだ」
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