第1章:崑崙宮脱出編

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「あなた一人で、あそこへ乗り込む気ですか?」  巴は眉をひそめて、心配そうに言ってきた。 「そりゃ無茶ってもんだ。私も行くよ」  ヤンテンも前に進み出てきて、ラクシュミーの側に立った。  二人が手を貸してくれるのであれば心強いが、正直、ラクシュミーとしては彼女らを巻き込みたくなかった。カイラを救い出すのは、あくまでも自分の個人的な事情だ。マヒとネハにだって来てほしくないくらいだ。 「船長、私達も行くよ!」 「行く行く!」  マヒとネハは揃って声を上げた。そんな二人の肩を、ラクシュミーはポンと叩き、かぶりを振った。 「あそこは皇帝がいる場所。警備も厳重なはず。マヒとネハには荷が重すぎるよ」 「船長、そんなこと言わないでよ!」 「カイラを助けるためだったら、私達、命なんて――」 「生きて!」  ラクシュミーは強い口調で言い放ち、マヒとネハを抱きしめた。 「まずはここを生き延びること。無事に安全なところまで逃げること。それがいまの二人のやるべきこと。いい?」  マヒとネハは不服そうにしていたが、構わず、ラクシュミーは二人を突き放した。そして、燕青を見た。 「それじゃあ、頼んだよ」 「わかった。みんなを連れて、なんとかこの都を脱出してみせる」  燕青は頷くと、他の全員に声をかけて、移動を開始した。マヒとネハは最後まで抵抗ある様子を見せていたが、ラクシュミーの命令でもあり、渋々と燕青についていった。  それでもなお、巴とヤンテンはラクシュミーの側から離れなかった。 「うち、助けてって言った覚えは無いからね」 「それで結構です。私が望んでやっていることですから」 「私もさ。あんたが気に入ったから、力を貸してやりたいだけだ」  ラクシュミーは肩をすくめて、苦笑した。これ以上は不毛なやり取りが続くだけだ。二人が自ら手を貸すというのを、止めることは出来ない。 「じゃあ、行くよ!」  号令をかけ、ラクシュミーは走り出す。その後を、巴とヤンテンはついてくる。巴は槍を、ヤンテンは錫杖を構え、いつでも会敵上等の態勢を取っている。  だが、一向に敵は現れない。  城壁の近くまで寄っても、護衛の兵一人すらも姿が見えない。  それだけ城内で異常な事態が起っている、ということなのだろうか。  皇帝の居城であるというのに、城門は開かれたままだ。  労せずして、ラクシュミー達は内部へと侵入することが出来た。  そのまま建物の中へと入り、黒い球体のある上階を目指してゆく。 「止まって!」  三階まで上ったところで、ラクシュミーは後から来る巴とヤンテンに警告を発した。  目の前に黒い球体の外面がある。その中がどうなっているか、何も見えない。  試しにラクシュミーは魚腸剣を刺してみた。  何の抵抗もなく、刃は黒い球体の中へと入っていった。 「中に入れるみたい」 「ただ、一か八か、ですね」  巴もまた槍を突き刺してみたが、結局何も掴めず、首を傾げている。内部がどうなっているのか、まったく把握できない。 「よし! 私が先に行くよ!」  そう言うやいなや、ヤンテンは黒い球体の中へと飛び込んだ。ラクシュミー達が止める間もなかった。中へ入ってからしばらくして、ヤンテンの腕が飛び出してきた。手招きをしてくる。黒い球体の中で何か言っているのかもしれないが、声は聞こえない。 「大丈夫……ってことなんでしょうか」 「みたいだね」  意を決して、ラクシュミーと巴の二人もまた、黒い球体の中へと突入した。
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