19人が本棚に入れています
本棚に追加
第1話
葉月。 ~The Second Augesut ~
「近藤凌空」何度その名前を心の中で
呼んだだろう。
彼と出会ってからもう1年が経ち、
あれ以来一度も会えていない。
毎朝意識が朦朧としている中、あの時のキャップが視界に入り、あの虹と、彼の太陽のように輝く笑顔を思い出す。
1年前の出来事だけど、それは鮮やかに、まるで昨日のことのように私の心に沁みついているんだ。彼のことを思うと、
何ともいえない感情になるが、
それはたしかに温かく、私を幸せにしてくれた出来事だという事に変わりはなかった。
私はあの日を境に転校が決まってしまった。
父の転勤が理由だったから、
私が否定する理由なんかなかった。
けれどやっぱり寂しくて。
彼の笑顔をもう一度だけ見たい、と思ってしまう自分がいたんだ。
そんな事を今日も変わらず考えていると
「かこー?早く起きて下におりてきなさーい!お父さんから大事な話があるってよー」
お母さんに呼ばれた。
「りょー!」
と返事をして、ベッドからでる。
カーテンを開けると明るい木漏れ日が部屋に
降り注ぎ、目をかすめる。
漫画とかなら、うわぁ!最高!ってなるような天気だけど、私は嬉しくは感じないんだ。
だって私は雨が好きだから。
曇りが好きだから。
だってね、雨や曇りの時、それはまるで
絵の具を混ぜ合わせてどんな色になるのか
ワクワクしている時と同じだから。
雨が止めば、奇跡が起きる可能性が高くなる。つまりね、
虹が出るかもしれないってこと。
またあの時に戻れるような気がして、
心が弾む。
それが、雨や曇り、そして虹が空にかかった時なんだ。
「かこーー⁉︎」
あ、
私は急いで階段をかけ下りて、ドアを開ける。そして、
「おっはー!」
なんて元気に挨拶。
父、母、そして小5の妹美愛はニコニコしながら挨拶を返してくれるんだ。
私はあの日、音楽で人を勇気付けてから、
「音」で人を元気にしたいと思うようになったんだ。
彼のように、周りを笑顔にしたい、と。
「夏虹、そこに座ってちょうだい」
「うん」
なんだろう。私はお父さんの正面に座った。
妹が隣でソワソワしている。
「あのな、夏虹と美愛に大事な話がある」
自然と空気が緊張する。
「父さんたち、音川家はこの夏休みの間に、引っ越しをすることになります!」
「「ええぇっ⁉︎」」
また?ここで過ごした1年もかけがえのないものだったのに、また失うのか。
「父さんは社長になる。だから、2人は
1年前いた学校にもう一度通ってもらう」
「「えええええええぇぇっっっっ⁉︎⁉︎」」
今言われたことがまるで糸のように頭の中
でこんがらがる。
お父さんがあまり大きくはないが、IT系の
会社で働いていることは知っていた。
しゃ、社長だなんて。
それにその後何て言った⁉︎
1年前の学校…。
あの時の…?「近藤凌空」がいる…?
またあの笑顔に会えるの…?
「やったぁーー!」
夢みたい!
「おかーさん、美愛お友達におてがみ書いて
くるね?」
と妹はワクワクした顔で言っている。
お父さんも満足そうなニコニコだ。
ついに。ついにこの日が来たんだ!
「おそらく、あの学校に行き始めるのは9月
からだろう。」
物語が再び動き出す。
私の記憶は再び更新される。
この時の私には、この後どんな物語が待ち受けていて、どんな未来が起こるのか、まだ知るよしもなかったんだ。
そう、
彼があの日全てを失い、それがが私の未来を
変えるだなんて。
最初のコメントを投稿しよう!