うちには綺麗なバラがいる

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 うちには、最高に綺麗なお姉さんがいる。  お姉さんがやってきたのは、去年のクリスマスのことだった。 「ねぇ琴乃、ほんとに欲しいものないの?サンタさんが琴乃の欲しいものがわからなくて困ってるって言ってたわよ?」 「えー…でも、ほんとにないの。サンタさんには、今年はお仕事お休みしてくださいって言っといて」  ここ三日ほど繰り返された問答をそのまま口にして、呆れ顔の母から目をそらした。  琴乃は自分でも少しおかしいと思うほど物欲がなかった。何か欲しいものはないのかと聞かれれば無いと答えるし、我慢しているのかと言われればそんなことはないと返した。傍からみても小学3年生の子が物をねだらないのは特殊らしく、構いたがりの両親は何かにつけて琴乃に物を贈りたがった。クリスマスや誕生日といったプレゼントが付き物の行事には、それが特に顕著だった。 「なんでもいいのよ。甘いお菓子とか、可愛い服とか。そうだ、猫ちゃんのぬいぐるみは?琴乃猫好きでしょう?」 「うーん……」    正直それらはとても魅力的だ。しかし欲しいかと言われればそうでもない。綺麗なものは見るだけで十分。甘いお菓子もどうしても食べたいわけでもない。しかし何か欲しいものをあげないと引き下がってくれないだろうと考え、何か無いかと視線を巡らせる。  すると、丁度コマーシャルが流れ始めたテレビに、満開のバラが映し出された。遊園地のバラが満開になったから、バラ園を開くという宣伝らしい。これだ、と思わずそれを指差す。 「これ、これがいい!」 「どれどれ?…バラ?お花が欲しいの?」 「うん。お花が欲しいの。」 「それじゃ、サンタさんには綺麗なお花をくださいって言おっか!」  あげるものが決まった母は嬉しそうに琴乃の頭をなで、夕食作りに取りかかった。そして数日後、枕元に美しいバラが届いた。  まずそれを目にしたとき、琴乃は思わず目を見開いた。枕元にあったのは、鮮やかなオレンジのバラ。しかしそれは琴乃の知っている鉢に入ったものではなく、ガラスのようなドームに入ったものだ。その見慣れない形にも驚いたが、何より驚いたのは…… 『おはよう、ゴシュジンサマ。美しい私に会えて、光栄でしょ?』 「……お姉、さん?」  そのドームの上に、手のひらくらいの大きさの、とても美しい女性がいたことだった。
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