うちには綺麗なバラがいる

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「おっ、おかあさーーーーん!!!」  困惑した琴乃は迷いなく母を呼んだ。背後で「うるさいわね!」と耳を塞ぐ女性の声を聞きながら到着したバラに花を差し出す。 「琴乃?どうしたの…あら!バラ届いたのね。よかったわねぇ」 「違うの、お姉さんがいるの!ここ!」 「え?お姉さん?」  母はバラをじっと見てそのお姉さんを探そうとしたようだが、やがて首をかしげながら顔を離した。 「お姉さんなんていないわよ?」 「でも…!」 『無駄よゴシュジンサマ。私ゴシュジンサマ以外には見えないの』 「え?」  手にしたバラを見下ろすと、女性はガラスドームの中でゆらゆら足を揺らしながらこちらを見上げていた。その顔はからかっているような表情ではなく、至極当然のことを告げているように見えた。 「琴乃?どうしたの?」 「あ…ううん、なんでもない。夢の中にお姉さんが出てきたから、間違えちゃったのかも。ごめんなさい」 「え~もうびっくりしたじゃない!もう少ししたらご飯できるから、それまでバラ見てていいからね」  琴乃の頭を数回撫でて母が出ていく。それをまって再度バラを見下ろすと、女性は新鮮なオレンジのような色の髪をくるくる指に巻き付けているところだった。 「あの…お姉さんは、誰?」 『私はこのバラよ、ゴシュジンサマ。名前は聞かないでね。固有名詞はないの』 「こゆーめーし?」 『わかんない?うーん…名前がないのよ。ただのバラだから。ゴシュジンサマつけたければつけていいわよ?』 「いいの?」 『ゴシュジンサマだもの、お好きにどうぞ』  琴乃は少し悩んで、いくつか候補を出した。 「バラちゃん!」 『いいけど、そのまんまね』 「いや?じゃあ、オレンジちゃん」 『柑橘系になった覚えはないわよ』 「えっ、えーとじゃあ……」  きょろきょろと辺りを見渡し、名前のヒントはないかと視線を巡らせる。すると、友達がおすすめだからと貸してくれたマンガが目に入る。そうだ、あの中にも美しい女性が登場していた。名前は確か…… 「ロゼちゃん!」 『ロゼ?』 「うん。マンガに出てきたお姫さま。お姉さんみたいに、すっごくきれいなの」 『ふぅん、お姫様。すっごくきれいなお姫様の名前なの。ふーーん?』  女性はによによと頬を緩め、誇らしげに胸を張って見せた。 『いいじゃない、私にぴったり。さすが私のゴシュジンサマね。今日から私はロゼよ』 「!よ、よろしくねロゼちゃん!」  浮かべた笑顔がどこまでも可愛らしくて、美しくて。女性は結局なんなのかという疑問はどこかに飛んでいってしまった。ガラス越しに笑みを交わし、女性…ロゼと琴乃は、その日から友達になった。
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