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そこにいたのは、20歳代の若い男性で初めて見る客だった。
先程の二人の女性客が、店を出ていく姿が見える。
店先のその男性は、紺色の上下スーツを着込み、髪は清潔感ある短髪で立たせてセットしている。顔は目鼻立ちがハッキリしていて、やや猫目風に上がり、その瞳は黒い。身長は175cmぐらいで、スラリと細身の体型をしていた。
叶恵が言葉を投げかける前に、男性の方から話しかけてくる。
「あ、タコ焼き2パック。良いですか?」
「は・・はあ。分かりました。」
一瞬、面食らった叶恵だったが、すぐに鉄板に火をつけタコ焼きを作りはじめた。
そのまま店先に立って待っている男性。
叶恵はタコ焼きを焼きながら、時折男性の方を気にかけて見る。
その雰囲気というか、醸し出すオーラが、どこか翳り《かげ》ある部分を感じさせた。
程なくして、出来上がったタコ焼きを袋に入れて差し出しながら、叶恵が言う。
「はい。タコ焼き2つで、1000円です。」
男性は急いでいる様子であり、お金を無造作に支払ったかと思うと、もう駆け出していた。
叶恵は受け取ったお金を持ったまま、不審な感覚を抱きながら眉をひそめ、男性の去っていく姿を目で追う。
すると、店から数十メートルの所にある電柱の側に、もう一人男性がいる事に気がついた。
タコ焼きを買った男性は、電柱の所で待っていた男性の前まで走っていく。
二人分。それで2パック買ったんだ、と叶恵は思った。
どうやら、タコ焼きをやり取りしているようだ。
電柱で待っていた男性は、この位置から見ても分かったが、かなり背が高い。
そして黒革のライダースジャケットを着て、革パンを履いているようだった。
店から、二人の男性の様子を見ていた叶恵だったが、電柱で待っていた男性がその視線に気がつき、こちらをチラリと見る。
その途端、叶恵は背筋に寒気が走り、まるで金縛りにでもあったかのように激しい緊張に襲われた。
ただ者ではない。
叶恵は何とか呼吸を落ち着かせ、二人の男性の存在が何者であるのか、改めて読み取ろうと試みたが、スッと路地裏の方へと消えていってしまった。
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