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その日の夜。
時計は、もうすぐ9時になろうとしていた。
一人、台所で料理をしている叶恵。
すると、ガタガタと音を立てて居間の引き戸が開く。
「ただいま〜。」
疲れた表情で貴志が帰ってきた。
「お帰り。アルバイト、今日も大変だった?」
台所から叶恵が迎えてくれる。
「うん、疲れた。まあでも、今日は早く終われたほうだけどね。」
貴志が答えながら、居間のちゃぶ台の前に座った。
少しして、夕食をお盆に乗せた叶恵が、台所から現れる。
「はい。今日はカレー。」
「家の外まで、カレーの香りがしていたよ。」
そう言いながら、貴志はもうスプーンを握っていた。
台所へと戻りながら、叶恵が言う。
「あ、福神漬けも、そこにあるから。」
と、その時また引き戸が開いた。
「お! やっぱり今日はカレーか。」
そう言って入ってきたのは、修治である。
相変わらずスラリと高い背に、眼鏡をかけ、青白い細顔には、無精髭が生えていた。
久しぶりに見たその顔つきは、少し痩せこけたように感じるが、その口からは言いたい事だけ図々しく吐き捨てる。
「アンタ。二週間ぶりか、三週間ぶりか知らないけど、突然帰って来ても困るんだけど。」
台所から、叶恵が言った。
「カレーは、たくさんあるから良いだろ。あ、俺はやっぱりカレーには、らっきょうが良いな。」
貴志は、なるべく関わり合わないようにして、そのままカレーを食べ続ける。
少しして、ちゃぶ台の前に座って待つ修治にも、カレーが運ばれてきた。
「おお! このスパイシーな香り。ミトコンドリアも喜んでいる。」
修治が歓喜しながら話しているが、叶恵は聞こえないふりして、そのまま台所へと戻っていった。
そして、すぐにカレーを食べ終えた貴志が、叶恵に言う。
「カレー、おかわりある?」
「いいよ〜。」
すぐに台所から、返事が返ってきた。
貴志のもとに来た叶恵が、何かを持って来る。
「そういえば、貴志。今日、曽我部さん夫婦が午前中に来ていたよ。韓国旅行、楽しかったみたい。これは、そのお土産だって。」
差し出したのは、韓国キムチと、韓国海苔。そして美容クリームと、ハニーバターアーモンド、エゴマ油。
「曽我部さん。たくさんお土産くれたんだね。」
貴志が土産物を見ながら言う。
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