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ほんの少しの間、沈黙が続いた。
先程まで近くに見えたツリーが、何故かとおくに感じる。
鬼切店長が、やっと口を開いた。
「叶恵さん。・・ありがとう。答えてくれて・・。俺も、もしもって思いながら立ち止まったままじゃなく、しっかりと前に進んでいけそうだよ。」
「私も・・ありがとう。たくさん、ありがとう。ずっと前から、その言葉を伝えれてなかったから。出会えただけでも、感謝です。」
ふわふわと音もなく雪たちが舞い降り、鬼切店長や叶恵の頭や体に落ちて跡を残した。
そのうちの一つが偶然、叶恵の目に落ち、ツッーと水となって流れていく。
それは雪だったのか。涙だったのか。
鬼切店長は、いつものように優しく温かい表情をしながら言った。
「これからも、貴志の事は任せてくれよ。」
叶恵も、笑顔で返す。
「ありがとう。貴志が、バイトやプライベートでも、お世話になります。」
気のせいか、二人は笑い合っているようだった。
そして、いつの間にか雪は止んでおり、冬の夜空の中に星屑たちが現れ、いつまでも二人を見守っている。
鬼切店長の家では。
時計は、23時になろうとしていた。
ソファに座っている貴志と、テーブルの椅子にいる美咲。
「さすがに鬼切店長、遅いよね。」
静かなリビングに、美咲の声がよく聞こえた。
「ああ。そうだな。」
落ち着いた口調で、返答する貴志。
お互いに、すぐそこにいる相手を意識しながら、この雰囲気の状況を打破してくれるキッカケを待っていた。
ソファで俯き加減だった貴志が、顔を上げて美咲の方を見る。
「・・美咲。」
「ん? ・・なあに?」
美咲が自分の髪を扱いながら、返事した。
しんみりと貴志が、想いを告げる。
「ありがとうな。さっきは強引な部分もあったけど、美咲なりに伝えてくれたんだよな。」
黙って話を聞いている美咲に、貴志が話し続ける。
「何か突然だったから、俺の方が混乱しちゃって・・・。」
「いや・・私こそ、本当に強引だったから、ごめん。」
美咲がペコッと頭を下げた。
貴志が真剣な表情へと変わり、美咲の方を見つめながら言う。
「ただ・・返事は少し待ってくれ。俺、不器用だから、こういう事は気軽に返事出来ないし。きちんと真面目に答えたいんだ。だから・・。」
「もう、分かったよ。貴志、大丈夫だよ。返事、待ってるから。」
美咲が、笑顔になって言った。
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