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それから数日後。
ここは、タコ焼きハウス・エリーゼ。
夕暮れ時。
店内で、タコ焼きを食べ終えた中年夫婦の客が、店を出ていく。
「ありがとうございました〜!」
叶恵が、威勢の良い声でお礼を言いながら、カウンターテーブルの上を台布巾で拭いていた。
その直後、店先に誰かの影が見える。
「タコ焼き、2つ〜!」
叶恵が手を止め声の主を見ると、以前2度も店に来た事のある、いつぞやの紺色ジャケットを着た刑事、江戸川だった。
見た目20歳代の若い江戸川は、相変わらず清潔感ある短髪でセットし、顔は目鼻立ちがハッキリしている。
「は〜い。2つですね!」
叶恵が注文を受けて、鉄板の前に立った。
タコ焼きの段取りをしながら、チラッと江戸川の方を見てみて叶恵が言う。
「この前の刑事さんですね。2回お店に来て、スーパーで1回見かけました。」
「そうだったかな。」
店先で待つ江戸川が、曖昧に答えた。
タコ焼きを焼きながら、叶恵が次の質問をする。
「えっと、・・お名前は?」
「江戸川。」
愛想のない態度で答える江戸川。
その時カウンターの方に、誰かが座った。
「カウンターで、頂こうか。」
声の主の方を叶恵が振り返ってみると、そこにいたのはもう一人の刑事、松田である。
その引き締まった筋肉質体型と、高すぎる身長の松田では、カウンター内が尚更、狭く感じた。
この前のように、黒革のライダースジャケットを着て革パンを履き、彫りの深い顔つきには無精髭《ぶしょうひげ》が生えている。
店先に立っていた江戸川も、店内に入ってきて、松田の横に座った。
程なくして、出来上がったタコ焼きを皿へと移し、叶恵がカウンターに運んでくる。
「はい。お待ちどうさま〜!」
刑事の二人は、早速タコ焼きを食べ始めた。
食べている姿を見ながら、叶恵が言う。
「あの、先日は危ないところを助けてもらって、ありがとうございました。」
松田は何も言わずに、食べ続けていた。
「いいよ。それが俺たち刑事の役目でもあるから。」
横の江戸川が、そう言う。
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