ケース5️⃣ 前世宿縁

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積み荷をする貴志の背後から、美咲が話し続けた。 「クリスマスの日、昌也くんも呼んで、鬼切店長の家でパーティーしようよ!」 「はあっ⁈ パーティー?」 貴志が手を止めて、振り返る。 「そ! クリスマスパーティー! 楽しそうでしょ!」 呆れた顔になり、再び段ボール運びを続ける貴志。 「楽しそうって・・。昌也だって、バスケで忙しいし。第一、鬼切店長が良いって言ったの?」 「まだ聞いてないけど。絶対、良いって言ってくれるよ〜。」 美咲は嬉しそうな表情で、もうワクワクした気持ちを抑えきれない感じだった。 台車に段ボール荷物を積み終えた貴志は、また台車を押しはじめる。 そして開きの扉を開けて、店内を進んで行く。 その後を美咲が駆けて付いてきた。 「で、・・・貴志〜。どうなの? パーティー来るよね?」 貴志は振り返りもせず、台車を押して店内をどんどん進んで行きながら返答する。 「・・・考えとく。」 「え〜〜〜! 何を考える必要があるのよ⁈」 美咲が、更に貴志を追いかけていこうとした時、店内の通路に突然、あの小太りの店員が現れた。 不機嫌そうな顔をして、美咲を見ている。 「何だよ、美咲ちゃん。パーティーって?」 途端に美咲は立ち止まり、表情が硬直した。 「え⁈ いや・・・、違います。パーティーじゃなくて、・・・。パー・・チーです。パーチーです。」 「パーチー⁈」 小太り店員は、眉をひそめて聞いてくる。 美咲は、戸惑いを隠しながら答えた。 「そ、そうです。発音が違うんですよ。パーチー、なんです。」 「パーチー⁈ だから、それって何?」 小太り店員が詰め寄る。 美咲が困惑しながら言った。 「パーチー・・ですか。パーチーは、・・・ほら、あの、うちで飼ってるハムスターの名前なんです。」 「ハムスター⁈ 美咲ちゃん、ハムスター飼ってるの?」 「あ、はい。飼ってます。」 急に、小太り店員の顔が緩やかに変わる。 「マジ⁈ ハムスター飼ってるの? 一緒じゃん! 実は俺もハムスター飼ってるんだよ! 凄いね〜!」 ややこしい展開になってきたと感じた美咲は、首を傾げて頭を掻いた。 嬉しくなってきた様子の小太り店員は、ますます美咲に話しかける。 「俺の飼ってるハムスターの名前は、しまじろう! ねえ何で、しまじろうって名前にしたのか分かる?」 「さ、さあ・・。あ、私そろそろ仕事に戻りますね!」 美咲はそう言うと、慌ててこの場を去っていった。 「あ、美咲ちゃん、待って。何でその名前・・。もう、クソッ!」 小太り店員は舌打ちして、怒りを露わにした。
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