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叶恵が、居《い》た堪《たま》れない表情になった。
「それで、・・その犯人。『奴らは・・』って事は、複数人いるんですね。」
「うん、まあ・・詳しくは話せないけど。」
「・・そういえば。先日、私に襲いかかってきたあの男。ほら、黒い肌で狐のように釣り上がった目と口髭。あの顔、今でも覚えてる。極悪人の代表みたいな顔していて。ガッシリとした体型で、頭からグレー色のパーカーを被っていた・・。」
そこで、江戸川が答える。
「ああ。皆川 勇次の事ですね。アイツは暴力団関係者ですから。」
叶恵が、あの時の事を思い出すようにして話した。
「その皆川 勇次。確かにあの時、『俺じゃねえよ。俺はただ、頼まれただけなんだ。本当だ。だから詳しい事は知らないんだよ!』って言ってた。」
「まあ皆川のヤツは、もう逮捕したし、何か手がかりが掴めるはずだから、尋問している最中だよ。」
そういう江戸川に対して、叶恵は伝える。
「あんな恐ろしいヤツら。みんな絶対に捕まえてよ。同じ犠牲者が出てほしくない。」
「それは言われなくても、俺たちは全力で絶対に捕まえてみせる。あんなヤツらに好き勝手させない。」
江戸川が、男らしく答えた。
その時、電話を終わらせた松田が店内に戻ってくる。
「おい、江戸川。急いでやらなきゃならない事が出来た。行くぞ!」
松田は、そう一言だけ告げて、またすぐに店を出ていった。
慌てた様子で、後を追って出ていく江戸川。
「あ、タコ焼き。ご馳走様〜!」
「また、来てね〜!」
叶恵は、そんな二人に一言投げかけるのがやっとだった。
カウンターに残った皿を片付けようと、叶恵が手に取った時、ふと気がつく。
松田のいたテーブルの皿の下には、いつの間にかコッソリと置かれた5千円札が一枚、出てきたのだ。
叶恵は店を出て、二人が去っていった方を見直したが、そこにはもう誰もいない。
手に取ったお金を見ながら、叶恵は微笑むのだった。
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