ケース5️⃣ 前世宿縁

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その後、レジのある出入口付近で、仕事をしていた貴志の肩をポンポンと叩く人がいる。 ふと振り返って見てみると、そこに立っていたのは、母の叶恵であった。 一瞬口をポカンと開けたまま静止していた貴志だったが、我に返ると問いかける。 「か、母さん⁈ 何してるの⁈」 「何してるって、買い物だよ。悪い?」 普段と同じ様子で返答する叶恵。 貴志は慌てて小声になり、話し続ける。 「買い物は分かるけど。ここのスーパーに買い物に来る事なんてなかっただろ。」 「まあ、私がどこで買い物しようと自由だし。たまには抜き打ちで見に来て、貴志がちゃんと働いているのか様子を見ようと思ってね。」 叶恵は、ふざけた態度をしながら答えた。 「分かるけど・・。いきなりバイト先に来たら、ビックリするだろ。」 「ビックリさせようと思ってね〜。」 叶恵の笑顔が、更に貴志に向けられる。 面食らった様子で、貴志は頭を抱え込んだ。 「別に悪くはないけど・・、来るならせめて一言・・。」 「ハハハ。照れなくて良いよ。」 笑いながら言っていた叶恵が、ふと何かを見つけたようで、途端に緊張した表情に変わる。 「あ! あれは・・・。」 貴志が、その視線の方に目をやると、たった今、出入口の自動ドアが開き、二人の男性が入ってきたところだった。 そのうちの一人は、紺色の上下スーツで、目鼻立ちがハッキリしていて、身長は175cmぐらいで、スラリと細身の体型をしていた。 そしてもう一人は、身長が高くスラリと引き締まった体型だが筋肉質である事が分かる。黒革のライダースジャケットを着て、革パンを履き、彫りの深い顔つきは険しさを漂わせていた。 すぐに叶恵が貴志に目配せをして、そのまま動かないように指示する。二人は黙ったまま、その場で静止した。 そんな横を、入ってきた二人の男性はキョロキョロと辺りを見回しながら通り過ぎ、店内を歩いて回る。
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