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盆休みになって純子と徳大寺が井原の家を訪れた。純子は赤ん坊を抱いていた。無論、井原の孫である。若干37歳にして彼は孫を手にしたのである。
「何で生まれたことを知らせなかった?」と井原は純子に訊いた。
「今日の為に驚かそうと思って」
「そうか」と井原は言うと、目線を赤ん坊に落とした。「ははあん、女の子だな」
「そうよ。パパ、よく分かったわね」
「純子に目鼻立ちが似てるからなあ」
「私に似てるからって女の子とは限らないわ」
「へへ、股間を触ったらあれがなかったんでね」
「まあ、パパったら」
「流石、井原だ」と徳大寺がすかさず冗談めかして口を挟んだ。元々図々しい男だから憚りなく井原と昔のように接することが出来るのだ。徳大寺のそういうところが井原は鼻持ちならなかった。今もどや顔をしているから自分の立場を思うと惨めになる。出来れば、自分が惨めにならないようにこの日までにパートナーを得ておきたかったのだが、3人のソープ嬢を口説いたところいずれも断られてしまったのだ。そのことも含め、「嗚呼、何ということだ!」と井原が赤ん坊を抱いた儘、心の中で叫んでいると、純子は言った。
「パパの啓介の啓を取って啓子って名付けたの」
「そうか、啓子ちゃんか」と井原が妙な気分で呟くと、徳大寺は言った。
「可愛いだろう」
「ま、まあな」と井原が手放しでは喜べず歯切れ悪く答えると、「まさか、俺とお前がこんな関係になるとはな。世界的に見ても稀な例だ。ハッハッハ!」と徳大寺はここぞとばかり大笑いした。
「嗚呼、何ということだ!」とまたも井原は心の中で叫んだ。
「これも偏に純子が俺を好きになったからだ。なあ、純子!」と徳大寺が惚気ると、「そうね、つねちゃん」と純子が答えたから、「嗚呼、何ということだ!」と井原は連チャンで心の中で叫んだ。徳大寺は恒夫と言うのだ。
「それと男根祭り(豊年祭)に行ったのも子宝に恵まれることになったんだろうなあ」と徳大寺が言うと、「御利益があったのね」と純子は言った。
「ああ、純子が拝殿に祭ってある男根型の御神体に心を込めて拝んだり巫女の持ってる男根型の供物に積極的に触ったり、ち〇こバナナやち〇こソーセージやち〇こ飴を甞めたことも効能があったんだろうな」
「そんなに甞めてない!」
「ハッハッハ!それはそうと」と徳大寺は笑ってから思い出したように言った。「そうそう、あの結婚式でのお前のスピーチ。今にして思うと、確かになあと納得することが一つあるよ」
「な、何だ?それは?」と井原は面白なさそうに訊く。
「純子が欲がないってことさ」
「そ、そうか」
「俺の一物だけで満足だとさ。ハッハッハ!」と徳大寺が再び大笑いすると、「まあ、やだわ」と言って純子は赤くなった。
「嗚呼、何ということだ!」と井原が自身にくどくどしく心の中で叫んだのは言うまでもない。
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