TAKE1〜桜木side

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 直井蒼太ことナオは私立百合ヶ丘学園高等部出身。俺の後輩。  ナオは学生時代から中性的で人目を引く美しさがあった。どちらかといえば物静か。友達とも伏し目がちに会話をする。長いまつ毛が震えるその様子は艶っぽくて、大人びていた。  “近寄りがたい美人”として男女問わず影で騒がれ、噂話からどんどん根も葉もない、大物政治家の愛人とか、とんでもない都市伝説まで作られた。  魔性の魅力は右肩上がり→しかし当の本人は自覚ゼロ→ストーキング行為は常態化。結果、日々ストーカーを生み出すストーカー製造機になりながらも、それでも当の本人は気づかないというカオス。学園はナオの入学直後から見事に機能不全に陥った。  無自覚過ぎるナオのため、当時、百合ヶ丘学園の跡取りにして学園王子と呼ばれ、他校にもファンクラブがあった俺がガードに入った。結果、3ヶ月後どうにか鎮静化。腐女子様には神カップルと崇められ、俺自身の青春は自粛を余儀なくされたけどナオは無事卒業。慶治大学商学部に進学し、その後同居。最後は魔性の魅力の前に女の子大好きな俺が陥落した。  その後、知人の推薦で女性ストッキングメーカーの脚タレとしてモデルデビューし、 現在はNAO名義でパーツモデルとして活動している。 「にしても、勿体ない」  このままパーツモデルとして終わるのは正直、勿体ない。  男のくせに女性のストッキングモデルとかダセェと言うヤツがいたのは事実だ。だから今も性別は非公表。でもそこが違うというか、男のくせにじゃない。女らしく?男らしく?最初からそういうことじゃないと思う。  時代はジェンダーレスへと移り変わろうとしている。そこには多くの配慮が必要で、でもそんなこと言ってる時点で本当の意味ではまだまだ遠いということで…  否定よりも肯定を。  まずは自分自身を認める強さを。  そう背中を押す誰かの声と世間の見えない声にはズレがあって、自分らしくあることはまだまだ難しい。それでも、こんな時代だから頑張ってほしい。そう思うのはたぶん俺だけじゃないはずだ。否定や批判を全てを黙らせるだけの魅力がナオには備わっているから。  他人をハッとさせる意志の強い瞳は人間力とは反対の“人間らしさ”にあふれているのに…  ちょっと頑固で、怖がりで、迷って、だから優しくて厳しい。離れた今も、ナオに対する信頼は一つも減っていないのに。そんな内面がナオを輝かせているのに…  だからもっと自信を持ってくれよ。  写真を前にそう思っても… 「伝わらないんだけどさ」  俺はナオのことをよく知っているから断言できる。  人見知りでもあるナオが犯罪に加担するなんて絶対ない。人の前に立つ仕事をしている人間が当たり屋の共犯になるわけない。それに、 「こんなにわかりやすくやるか?普通」  素人でも見破れる保険金詐欺未遂なんて。そこまでバカというか、軽率ではない。   山上にある百合ヶ丘学園は都会の喧騒とは無縁だ。窓越しに空を見上げた。そこにはビルに囲まれた都会では決して見ることができないパノラマ・スカイ。 「変わんないよな」  チャイムも、生徒の声も、時がどれほど経っても何一つ変わらない。
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