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告白?
2月14日。
バレンタインだろうとなんだろうと、金は稼がねばならない。
むしろ、世間が浮き足立ってるこんな日にこそ稼ぎ時だ。
カップルどもは浮かれ踊っていればいい。
その間に、俺は働いてやる。
そう意気込んで行ったバイト先のコンビニで、俺には一生降りかかる事のない境遇の人に会った。
バイトの先輩で、大学生の鈴野さんだ。
鈴野さんは、更衣室の自分のロッカーの前で大きな紙袋をゴソゴソと漁っていた。
紙袋の中には、色取り取りに包装された箱やら小さな袋やらが、溢れんばかりに詰まっている。
全て貰ったものなんだろうな。
今日はそういう日だし。
これだから顔のいい人は。
つーか、なんでこんな日にバイト入れてんだろ。
候補が多すぎて、逆に選べないとか?
それにしても、今日くらいは誰か一人を見繕ってみてもよさそうなものなのに。
モテる男の考える事は分かりませんねぇ。
「随分たくさん貰ったんですね」
紙袋の中を覗き込みながら、挨拶代わりにそう言った。
近くで見ると本当に凄い。
ここまでくると、妬みを通り越して感心に近いよな。
マンガだよ、この量は。
それなのに、鈴野さんは関心しまくりの俺を見上げて平然と口を開いた。
「普通だろ、このくらい」
「全然」
どこが普通だよ。
やはり、顔のいい人は違う。
今の発言も、謙遜でも嫌味でもなく、本気でそう思っているようで凄い。
そんな鈴野さんの「普通」と、俺の「普通」を一緒にしてほしくない。
「俺なんて0ですよ、ゼロ」
コートを脱ぎながら言うと、鈴野さんが意外そうにこっちを見た。
「1個も?」
信じられない、というような顔だ。
なるほど。
鈴野さんにとって、バレンタインに1個も貰えないという方が「特別」であり、あり得ない出来事なんだな。
次元が違いすぎて、どう答えていいのか分からない。
「義理なら、辛うじて」
菓子作りに凝っている妹と、隣の家のおばちゃんから、1個ずつ。
数に入れるには、少しばかり憚られる。
「そっか」
そう言った鈴野さんがクスッと笑ったのを見逃さなかった。
「何笑ってるんですか」
「哀れだな、と思って」
嫌な人だなぁ!
もっと遠回しに言えよ。
一瞬、殺意抱いてしまったじゃないか。
「どーせ、鈴野さんにはモテない野郎の気持ちなんて分かりませんよー」
チョコの数が男の良し悪しじゃねぇだろ。
なんて、負け犬の遠吠えか。
軽く拗ねてみせた俺を見た鈴野さんは、床に置いた紙袋をそのままにして、今度はロッカーの中から何かを探しているようだった。
なんだよ。
そっちにも入ってんのかよ。
マジで嫌味な人だな。
「そんなに拗ねるなよ。これ、やるから」
と、鈴野さんが持っていた何かで俺の頭をコンと叩いた。
くれると言うので手に取ってみると、それは、よりにもよって……。
「……チョコ」
何の変哲もない、ただの板チョコ。
綺麗な包装がしてある訳でも、期間限定バージョンな訳でもない。
それでも、チョコはチョコだ。
お礼の言葉も忘れて、自分の手の中にあるチョコの意味を考えていた。
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