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警備室。
今から、総理の記者会見が始まる。
警備室には、総理の安全を守るため、いろんな角度から総理を映すモニターが設置されている。総理が無事に記者会見を遂行できるように見守り、必要時には裏で対処するのが俺たちの仕事だ。
「おい、吉田。」
「はい。」
「モニター映り方、全部OKか?」
「はい、全部いい角度から映ってますよ。」
「よし、準備万端だな。記者会見始まるまで、座って待つか。」
「そうっすね。」
「なぁ、吉田。」
「なんすか、先輩。」
「モニターで総理みてみろ。スーツのボタン、かけ違えてねーか?」
「え?あ、本当すね。」
「まずい、記者会見始まっちまうぞ。はやく知らせろ。」
「はい。わかりました。ちょっと行ってきます。」
「ったく、周りのやつだれも気づかないとかあり得ないだろ。」
***
「吉田のやつ、遅くね?」
「先輩、遅くなりました。伝えてきました。」
「おせーよ。ってか、なおってねぇじゃねーか。ちゃんと伝えたのか?」
「誰に言っても取り合ってくれなくて。とりあえず総理の近くの人に伝えたんですけどね。」
「なんだよー。周りのやつ何やってんだかなぁ。」
「そうだ。あっちに中村が行ってたはずだから電話するわ。」
プルルルルル...。
「はい。中村です。」
「あ、中村?」
「先輩、どーしたんすか?」
「総理、スーツのボタンかけ違えてんだわ。総理の前には机があるからあんま見えないだろうけど、一番上のところが机からちょっと見えてんだよ。伝えてくんねーか?」
「見えてるんですか、それはまずいですね。分かりました。でももう記者会見始まっちゃうんで総理周辺には近づけないですね。」
「じゃあ...。あ、お前紙あんだろ?紙に大きく書いて総理に直接伝えろ。」
「紙すね。やってみます。」
「それでは、記者会見をはじめます。」
「ほらー。はじまっちまったぞー。」
「先輩、先輩。こっちのカメラのモニターに中村が映ってます。」
中村が持ってる紙の文字。
【 見えてます。 】
「って、おい。それじゃ伝わんねーよ。馬鹿だなあいつ。」
「中村にもっかい電話だ。てかなんでだれも言ってやらねーんだよ。あとで恥かくの総理なんだぞ。」
「補正予算案を...」
「あ、先輩、総理が中村のカンペに気づいたようですよ。」
「ほんとか?でもよく考えたら記者会見中にボタン直せんよな...。」
「あー。たしかに...。でも総理、中村のカンペを確認してから下を見てますよ。」
「ほんとだ。手を下に持っていったな。こっそり直せるのか...。てか、なんか総理の手、ジャケットより下にいってないか?」
「え...。ほんとっすね。」
「...。」
「いや、記者会見中に社会の窓直すのかよ。下向いたならジャケットのボタンにも気づけよ。てか、どんだけだらしねーんだよ。」
「先輩、中村から電話です。」
「あ、先輩、総理に伝わらないっすね。」
「いや、ある意味伝わったわ。」
「もういい、仕方ない。」
「いいすか?わかりました。」
-----記者会見後
「だれだ、あんな分かりにくいカンペを出させたやつは。
書くなら単刀直入に【社会の窓】だ!」
総理のスーツのボタンは、
今も掛け違ったままだ。
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