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とんでもない人間
律の手でイカされた……その事実に茫然となる僕の耳に律の囁きが入りこんで来る。
「分かった? 陽馬。オナニーの仕方。いたずらに触ってばかりいても、満足できる快感は得られない」
律は覆いかぶさっていた僕の体から退くと、ベッドを降り、クスクスと笑う。
「そんな状態じゃ、童貞捨てるのまだまだ遠そうだな」
「なっ……なっ……」
僕はもう返す言葉も見つからなかった。
「女の子ならいくらでも紹介してあげられるけど、今のおまえじゃまだ無理だな。ま、徐々に俺が教えてあげるから。いろーんなこと」
「い、いらないっ」
「嘘だー。俺の手でされて、あんなに感じてたくせに」
「……っ……」
どうしてそんな台詞が言えるのだろう?
律の言動は完全に僕の理解の範疇を超えている。
僕は部屋を出て行こうとする律を、咄嗟に呼び止めた。
「あ、あの、律、くん……」
「あ? 律でいいよ。タメなんだし。まあ俺の方が一日だけ兄ちゃんだけどそこは甘く見てやってもいいし。……で、何?」
言いたいことは頭の中に溢れそうなくらいあったが、僕の口から出て来たのは謝罪の言葉だった。
「あ、あの、さ、さ、さっきはごめんなさい」
「何のこと? 俺の手の中でイッちゃったこと?」
「っ……違っ……、だ、だから、そ、その、の、覗く気なんかなかったし、か、彼女さんにも謝っておいてくださいって……」
そこまで言ったとき、ふと僕は疑問を感じた。
あれ? そういえば彼女さん、どうしたんだろ? まだ隣の部屋にいる? まさか……。
自分の彼女を部屋に待たせたままで僕にあんなことをした……?
そんな想像をする僕に律は綺麗な笑みを見せて応じる。
「彼女なんかじゃないから、別に構わないけど。でもケーキと紅茶のトレイ落とされたのには参ったわ。あのあと何事かって母さんが部屋に来て、あと少しのところでヤッてるとこ見られるところだったんだからな。おかげであの子はセックスを途中でとめられて不完全燃焼で、ぷりぷりしながら帰っちゃった」
「…………」
律のあっけらかんとした言いように僕は開いた口が塞がらないという思いを身をもって体験した。
顔立ちは端整、スタイルはモデルのようで、成績も最難関と言われるT大学現役合格の太鼓判を押されるくらい優秀な律。
けれど律は一日に二回も違う女の子を引き連れるくらいチャラく、血の繋がりはないとはいえ一日違いの『弟』の自慰の指導をするという信じられない行動に出るとてつもない変わり者……。
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