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女の子はブラウスの前を大きくはだけ、豊かな胸が露わになり、下半身は何も身につけていない。
対して律はネクタイを少々緩めているもののブレザーを着たままでズボンの前をくつろげているだけ。
はっきり言って僕はAVというものさえ見た経験もなく、その手のシーンと言えば、テレビのドラマや映画などで放送されるラブシーンくらいしか見たことがない。
そんな僕がいきなり目の前でそういうことをしている真っ最中――おまけに僕の位置からは、その……、そ、挿入している所がはっきりと見えた――を見せつけられて平常心でいられるわけはなかった。
「――――!!」
僕は声なき悲鳴を上げ、ケーキと紅茶の乗ったトレイを放り投げ、その場から逃げ出した。
逃げ出す間際にチラッとだけ律と目が合ったのだが、彼は僕が慌てまくるさまを見て微かに口元に笑みを浮かべていたみたいだ。
自室に逃げ込んでからも、僕のパニックともいえる状態は落ち着くことはなかった。
目を開けてても閉じても、律と女の子の抱き合う姿がまざまざと脳裏に蘇って来る。
おまけに……律が抱き合っていた女の子はさっきハンバーガーショップの窓から見かけたときに一緒にいた子とは明らかに別人だった。
街で一緒だった子が彼女じゃなかったのか? それとも両方とも律の彼女ということか……。
バクバク言っていた心音が落ち着いて来ると、僕の部屋には静寂が落ちて来て、今度は隣の部屋のことが気になって仕方なくなってくる。
今、この瞬間にも壁一枚を隔てただけの隣の部屋では律と女の子は抱き合っているのだろうか……?
気づけば僕は息を殺して隣の部屋の気配を伺っていた。
微かに律の甘い吐息が聞こえた気がしたが、それは僕の幻聴で、隣の部屋からは何も聞こえて来ない。
静かな部屋で一人ベッドに座り、僕が思い浮かべるのは、決して女の子の豊満な姿態ではなかった。
……僕は女の子に興味がもてない。
それはもうずっとずっと昔から。
思春期と呼ばれる頃になり、周りの友人たちが女の子の話に夢中になっているときでも僕はその輪に加わっている振りをしているだけで、実際には何の興味も持てないでいた。
最初は恋愛ごとに奥手なだけだと思っていたけど、違ったんだ。
僕が好きなのは男の人……これは母さんだって知らないっていうか言えっこない。
重い溜息をつきながら僕はベッドへ寝ころんだ。
僕の好きなタイプはあんまり男臭くなくて、今風のアイドルやイケメン俳優のような人で……そう、初めて律と会ったとき一目惚れに近い感情を覚えたように、見た目だけを言うならば、律は完全に僕の理想だった。
再び溜息をつき、目を閉じると律が女の子と抱き合っているシーンがまた思い出される。
どうやらあまりにも刺激が強すぎて、僕にはトラウマになりそうだ。
ギュッと強く目を閉じて頭に焼き付いてしまったシーンを消そうとしているうちに、あろうことか律と抱き合う女の子と自分が混同されて来てしまう。
律に組み敷かれる僕。律に抱かれる僕。
決してそんなこと想像したいわけじゃないはずなのに、僕の心は夢想することをやめない。
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