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新しい家族
「……こんにちは……湊陽馬(みなとはるま)です」
僕が新しく家族になる二人にそう挨拶をすると、隣に立っている母親に笑いながら訂正された。
「陽くん、違うでしょ。佐藤(さとう)陽馬でしょ」
「あ……」
そうだった。
母さんと目の前に立つ新しい父さんは式は挙げなかったが、もう籍は入れたので、僕は十七年間使い慣れた湊という名字ではなくなったんだっけ。
「ご、ごめんなさい……」
僕は慌てて右手の中指でずり落ちかけた眼鏡を元に戻した。
「いいよ。陽馬くん、そんなこと気にしなくたって。ゆっくり家族になって行こうね」
新しく父さんになる人はとても優しい人で、母さんを幸せにしてくれそうで僕は安堵していた。
母さんは僕が十歳の頃に父さんを亡くしていて女手一つで僕を育ててくれたから誰よりも幸せになって欲しい。
そう願いながら視線を新しい父さんの隣に立つ、僕と同年代の相手に向ける。
父さんとは何回か会って話したことがあったが、新しく兄弟になる彼とはこのときが初対面だった。
彼は僕と同じ十七歳の高校二年生と聞いていたが、とても大人びていた。
加えて類稀なる美貌の持ち主で、僕の胸は少しときめいてしまう。
今風の垢ぬけた顔立ち、背も高くスタイルも抜群。すぐにでも芸能界から誘いが来てもおかしくないレベルだ。
僕がボーッと彼に見惚れていると、父さんが紹介をしてくれる。
「陽馬くん、息子の律(りつ)だよ。ほら、律、挨拶して」
「よろしくお願いします」
律と紹介されたその国宝級と言ってもいいイケメンは、まず母さんに向かって丁寧に頭を下げてから僕の方へと向いた。
「よろしく」
薄茶色の瞳をした切れ長の目に見つめられて僕のドキドキがとまらない。
「こ、こちらこそ、よろしくお願いします」
やや上擦った声で応じると、彼はクスリと笑った。
その笑い方が何となく僕を馬鹿にしているかのような気がして。
律に一目惚れに近い感情を抱いていた僕だったが、少しだけ彼に対する印象は悪くなってしまった。
「さあさあ、玄関で立ち話もなんだから、中に入って。ここが今日から陽子(はるこ)さんと陽馬くんの家になるんだからね」
父さんはどこまでもやさしく僕と母さんを家の中へと招いてくれた。
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