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ダメ出しが続いて
「という、話を書いてみたんです! タイトルは『ひまわり町の猫端会議』。井戸端会議を文字って、猫端会議にしてみました」
「はあ……」
「今度こそどうですか!? 若者向けでしょう!?」
「ですから、あの……」
「シロエは近所の野良猫をモデルに書いてみたんです! たまに見かける白猫で、ちょっと性別はわからないんですが……」
「水野先生」
興奮気味に話していた僕は若い男性の声で我に帰る。
「どうしましたか? 名良橋さん……」
「これもボツで」
「どうしてですか!? 今度こそ力作ですよ!?」
声を荒げて立ち上がると、名良橋は「しーっ!」と口元で人差し指を立てる。
言われて周囲を見回すと、僕たちが座っているボックス席周辺の客が訝しそうにこっちを見ていたのだった。
「あ、す、すみません……」
僕は周囲に謝ると、席に座り直す。
ボックス席横の通路を通って、飲み物を運ぶ店員にまで訝しむような視線を向けられる。
店員が通り過ぎた後には、コーヒーの香りが漂っていた。
僕たちが打ち合わせしている喫茶店は、平日の昼過ぎにしては、繁盛している店だった。
やはり、在宅ワークの影響なのか。
僕らと同じように、ノートパソコンと書類を持ち込んで仕事をする者が多かった。
電話で話しながらパソコンを操作する者、一心不乱にキーボードを叩く者、パソコンの画面をじっと見つめている者など、様々な客が店内にいたのだった。
「なんというか……面白くない」
「面白くないって。だって、猫を主人公にした話を書けと言ったのは、名良橋さんじゃないですか。猫をテーマした小説は売れると」
「確かにそう言いましたが、こう日常の話じゃないんですよね」
「はあ……?」
「例えば、猫になった人間の話や、異世界に行ったら猫になった話とか、そういうのを期待していたんです」
「今の流行りは異世界話ですからね〜」と、名良橋さんはコーヒーに口をつける。
「じゃあ、猫と異世界の話を書いたらいいんですね?」
「異世界に限らず、ファンタジー作品はどうでしょうか? 元々、水野先生はファンタジー作品でデビューされましたよね。
それがどうして、今回はヒューマンドラマならぬキャットドラマになったんですか?」
「……今のご時世、王道ファンタジー作品は、なかなか人気が出ないので……」
目を逸らしながら答えた僕に、名良橋はため息をついたのだった。
「とにかく、もう一度、考えて下さい。先生の次回作を期待している読者の気持ちを考えて」
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