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姫君から解放された魔王は真実を知ると、姫君が寂しくならないように、彼女の封印を守っていくと誓ったのだった。
自サイトに投稿したばかりの頃、こんな荒唐無稽の物語を読む者はほとんどいなかった。
それが少しずつ読者が増えていき、最終話を投稿する頃には、終わりを悲しむコメントや感想がサイトに集中した。
そんな中、その話を書籍化しないかという打診が自サイトのメールフォームに寄せられたのだった。
念願の書籍化に舞い上がった僕は、二つ返事で承諾すると、出版社の話も聞かずに、会社に辞表を提出した。
それからは、小説の加筆修正作業をして、コミカライズ化も決まった。
出版して世間で人気が出ると、TVアニメ化の話がやってきた。
それも承諾して、TVアニメが放送されると、世間は僕の作品で溢れるようになったのだった。
ーーこれも全て十年前の話だが。
(最初で最後の人気作だったな……)
夕方近くまで新作のネタを考えた僕だったが、結局思いつかないまま、喫茶店を出る事になった。
TVアニメ化とほぼ同時に、新作として新しいファンタジー作品を出版したが、TVアニメの放送が終わると下火となった。
その作品は三巻まで発売されたが、打ち切りとなって、その作品以降も打ち切りが続いた。
やがて収入もなくなり、今は書店でアルバイトをしながら少しずつ執筆をしていた。
初心に帰って、王道ファンタジーを書いていたが、十年経てば人気の作風も変わってしまった。
昨今は、異世界に転生する話や、あやかしが登場する話、料理がテーマな話ばかりが書店の店頭に並ぶ。
勿論、昔ながらのミステリー小説やSF小説、ヒューマンドラマもあるが、売れているのはいずれも人気のある作家や、何かしらの賞を受賞した作品ばかり。
無名の作家の本は、どんどん隅に追いやられて、やがて店頭から消えてしまう。そんな運命。
自分の本もまた同じであった。
自宅近くまで戻って来ると、家の近くの塀の上に白猫が寝そべっていた。
「お〜い。シロエ、ただいま」
この白猫こそ、『ひまわり町の猫端会議』のモデルとなったシロエである。
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