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僕は話しかけるが、シロエは興味がないようにそっぽを向いた。
「聞いてくれよ〜。お前をモデルにした作品がボツになったんだよ〜」
僕は手短に『ひまわり町の猫端会議』のストーリーと、先程、名良橋とあった出来事を手短に話す。
その間も、シロエは塀の上で丸くなって寝ていたのだった。
(まあ、いつもの事だし)
シロエが寝そべる塀の前を通り過ぎた。
その時だった。
「アホにゃ」
「えっ……」
「もっと面白い話を書けにゃ」
どこからともなく、声が聞こえてきたのだ。
「えっ!?」
辺りを見回すが、他に人はおらず、塀の上にシロエが寝そべるだけであった。
「まさか、お前が……?」
僕が話しかけると、シロエは塀から飛び降りて、向こう側へと向かった。
塀の先は見知らぬ民家なので、勝手に入る訳にもいかず、僕はシロエの姿を見送るだけに留まった。
ゆらゆらと白い尻尾が消えて行くのを、ただただ見送ったのだった。
そのまま、シロエを見送ると頭の中に閃いたものがあった。
僕は自宅の安アパートまで走って帰ると、部屋に駆け込む。
脱ぎ散らかしたままの服を蹴り飛ばし、乱れたままの布団の上にちゃぶ台を乗せると、ノートパソコンを開く。
カタカタとしばらく打鍵音だけが部屋の中に響き渡り、日付が変わるギリギリに書き終わる。
「出来た!」
そのままの勢いで、スマートフォンを取り出してテレビ電話を起動すると、名良橋に電話を掛ける。
夜も遅いからか、なかなか出てくれない名良橋に焦れつつも、執拗にテレビ電話を掛け続けたのだった、
しばらくして「どうしたんですか……」と、寝ぼけ眼の名良橋がテレビ電話に出る。
「聞いて下さい。今度こそ次回作が思いついたんです」
「じゃあ、明日の朝になったら読むので、パソコンに送って下さい……」
「おやすみなさい……」と言って、名良橋はテレビ電話を切ったのだった。
僕はパソコンでメールを立ち上げると、先程作った新作のプロットと冒頭のデータを添付する。
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