私の魅力

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 そんな存在と付き合ったり、まして抱いたりなんて気にならないよね。    怒ったような先輩の声。    知ってた。でも、聞きたくなかった。  聞かなきゃよかった。  私は踵を返して、トボトボと引き返した。 「………お前、またかよ。今度はどうしたんだ?」  呆れたような声に引き止められた。  目を上げると、森さんだった。  タオルで頬を拭われた。 「森さん……」  呆れた声の割には優しい目をした森さんがいた。 「どうせ、久住のことなんだろ? 言ってみろよ」  そう言われて、つい、ぽろっと漏らしてしまう。 「私って魅力ないのかな?」  想定外の問いだったのか、森さんが目を泳がせた。  そんなこと言われても困るよね。 「ごめんなさい! 変な質問して。忘れてください」  まるで魅力があるって言ってほしいような問いをして、恥ずかしい。  なのに、森さんは視線を戻して言ってくれた。 「………お前はかわいいよ」  優しいなぁ。  いつもかわいいまでは言ってもらえるだよね。でも、それ止まり。  はぁっと溜め息をついて、愚痴のようにこぼす。 「違うんです。女としての魅力がないのかなって思って」  へにゃりとごまかし笑いをすると、森さんは突然ぐいっと腕を掴んで言った。 「言わせたいのか?」 「えっ?」 「()()()()()、言わせたいのか?」  ふいに森さんがすごく近くにいるのに気がつく。  急に見せられた熱い瞳に驚く。  森さんは男の人だ。お兄ちゃんじゃない。  当たり前のことに、いまさら気づく。 「お前、俺が女として惹かれてるって言ったら、どうするつもりだ?」  重ねて問われて、息を呑む。 「ご、ごめんなさい………」  うろたえて言うと、森さんは溜め息をついて、手を離した。 「もっと考えてからものを言え。それに無防備すぎる。気をつけろ」 「…………ごめんなさい」  森さんはふっと表情を変えて、くしゃくしゃと私の頭をなでた。そして、いつものように、にやっと笑う。 「久住に疲れたら、俺のところに来い。ベタベタに甘えさせてやる」  すごく甘い瞳で言われて、ばっと赤くなる。  なんて答えていいのか、わからない。  困っていると、森さんがまた笑って、「じゃあ、またな」と手をあげて去っていった。  呆然として、その姿を見送った。
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