嫌な予感

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「あんな悪口、聞き流せばいいんです。本当のことだし、慣れてます」  ふいに先輩が私の頬をなでた。 「お前はかわいいよ。かわいすぎて、たまにどうしたらいいかわからなくなる……」  真剣な目で真剣な口調でそんなことを言うから、私は腰が砕けそうになる。  かわいいって、フリで言ってくれたんじゃなかったの?  本当にそう思ってくれてるの?  優しく私を見下ろす綺麗な瞳を見ていると、想いが溢れそうになる。  ダメだ……!  先輩はそういうの好きじゃない。うんざりしてる。  私が色気もなにもないから、こうして気軽に接してくれているだけ。  もし私が先輩を好きだってバレたら、あの子たちと同じになる……。 「も、もう、先輩! そんな顔しちゃダメです! 私じゃなかったら、また悪質なストーカーが増えるところでしたよ!」 「別に優だったら問題ない」 「問題ありますよ!」  しれっとそんなことを言うから、もう私の心臓が壊れそう。  勘弁してください〜。 「付き合ってることにしたら、被害が防げるか?」  先輩はさらに、そんなとんでもないことを言い出した。  じっと見つめられて、その視線に耐えきれず、ふっと目を逸らす。 「先輩、ダメです。先輩と私が付き合うなんてあり得ないから!」 「…………あり得ない、か。まぁ、そうだな。他の方法を考えよう」  自分で言ったくせに、あっさり同意されて、落ち込む。  やっぱり遥斗先輩的にもあり得ないんだ……。  無表情に戻った先輩の手から逃げ出して、パソコンの前に行く。  写真でも加工して、落ち着こう。  先輩は落ち着き払った顔で、また絵を描き始めた。  しばらくして、帰る支度をして、「それじゃあ」と言いかけると先輩は「送っていく」と言ってくれる。  「大丈夫」と言うのに、「俺が気になるから」と言って、家まで送ってくれる。  先輩と肩を並べて外を歩くことはめったにない。  心配してくれている先輩には悪いけど、どうしても顔が緩んでしまう。  家がもう少し遠ければよかったのに。  
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