嫌な予感

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「大した話じゃないんだよ?」  しぶしぶ一昨日のことを話す。 「だから、遥斗先輩は庇ってくれただけなの」 「えー! なにそれ、ときめくー! 本当に庇っただけなのかな?」 「うん、それだけだよ。遥斗先輩も付き合うとかあり得ないって言ってたし」  また自分で言って、ショックを受ける。 「えぇー! そんな話までしてるの?」 「違う違う! 先輩が付き合ってるフリをしたら、この騒動が収まるかなって言うから、私が先輩と付き合ってるなんてあり得ないって言って、先輩もそうだよなって……」 「もう、なんであり得ないとか言うの?」 「だって、先輩と釣り合うわけないもん」 「なんで?」 「だって、あんな素敵すぎる人が私なんて……」  言っててむなしい。この頃、散々言われている。  かわいくない。ちび。ブス。ちんくしゃ。  その通りだもん。  遥斗先輩にも色気がまったくないって言われたし。 「どうしたの、優? 前向きで元気が取り柄なのに」 「逆にそれしかないし」 「最近言われてる悪口を気にしてるの? あんなの無視したらいいのに。優は十分かわいいよ? 遥斗先輩だって、きっとそう思ってるよ。だから、庇ってくれてるんだろうし」  さやちゃんが頭をなでて慰めてくれる。 「う……ん、そういえば、先輩にもかわいいとは言われたけど、それは子どもみたいとか、そういう感じだし」 「えぇー、かわいいとか言われてるの!? 男の人がそんな理由でかわいいとか言わないでしょ?」 「でも、遥斗先輩はなんか常人とは感性が違うというか……」 「そうなのかなぁ」 「だって、色気がないって爆笑されるぐらいなんだよ?」 「うーん、なんとも言えないね。でも、脈なしではないと思うよ? 頑張ってみたら?」 「先輩はそういうの嫌いだと思うし、どう頑張ればいいか、わかんないよ」  途方に暮れてさやちゃんを見上げると、「かわいいっ」と抱きしめられた。 「優は今のままでかわいいから、やっぱりなにもしなくていいよ。女の私でもこうしたくなるぐらいだから」 「もう、なにそれ」  さやちゃんが笑って、つられて私も笑った。なんか元気をもらった。  それから、遥斗先輩のあまりの塩対応が話題になった。  私も居合わせたことがあるけど、氷点下の眼差しで見下され、「迷惑だ。来るな」バタンッとドアを閉められる。取り付く島もないとはこのことだと思った。  あれをやられると、私だったら心が折れる。  憤慨している子もいたけど、それすらだんだん語られなくなって、なにごともなかったかのような日常が戻ってきた。  先輩の塩対応すごい……。
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